糖尿病とは
糖尿病とはインスリンという血糖値を下げるホルモンの不足や働きの低下が原因で、血糖値の上昇を抑制する働きが低下することによる高血糖状態が慢性的に続く病気です。
糖尿病には1型と2型があります。
1型糖尿病はインスリンを出す細胞が破壊されるためにインスリン注射が必要です。
一方2型糖尿病は遺伝要因や運動不足、食べ過ぎなどの生活習慣が原因となって発症します。
日本では糖尿病の疑いのある人を含めれば成人の6人に1人、実に1870万人の患者がいるといわれています。
糖尿病はインスリン自体の分泌が低下した状態(インスリン分泌低下)か、分泌していても働きが十分ではない状態(インスリン抵抗性)が慢性的に継続し、血糖値が高くなる状態のことです。[1]
1型糖尿病と2型糖尿病/症状の違い
1型糖尿病とはすい臓のインスリンを出すβ細胞(ベータさいぼう)が壊れた状態の病気です。
β細胞からインスリンが出なくなるため治療にはインスリン製剤が必要です。
若い人を中心に発症しますが幅広い年代でも発症し、生活習慣が原因となる2型糖尿病とは治療も原因も大きく違うのが特徴です。
一方、2型糖尿病はインスリンが出にくくなったり、インスリンの効き目が悪くなったりするために血糖値が高い状態が続きます。
原因は遺伝的な要因に加えて運動不足、食べ過ぎ、肥満といった生活習慣が関わっています。
1型糖尿病の種類
1型糖尿病のβ細胞破壊は一般的には進行性です。そのため病気が進行するとインスリンがほとんど出ない状態になります。
生きていくためにインスリンを補充することが必須となる「インスリン依存」の状態となってしまうのです。
1型糖尿病は自己免疫性と特発性に分類され、さらに進行速度によって「劇症1型糖尿病」「急性発症1型糖尿病」「緩徐進行1型糖尿病」に分けられます。
劇症1型糖尿病
劇症1型糖尿病の診断基準を見ていきます。
“
-
糖尿病の症状発現後1週間前後以内でケトーシスあるいはケトアシドーシスに陥る
-
初診時の(随時)血糖値≧288mg/dlかつHbA1c>8.7%※劇症1型糖尿病発症前に耐糖能異常が発生した場合は、必ずしもこの値数字は該当しない
-
発症時の尿中Cペプチド<10㎍/日、または空腹時血中Cペプチド<0.3ng/ml、かつグルカゴン負荷後(または食後2時間)血中Cペプチド<0.5ng/ml
上記1~3のすべてを満たすものを劇症1型糖尿病と診断する。”[2]
急性発症1型糖尿病
急性発症1型糖尿病の診断基準は以下のとおりです。
“
-
口渇、多飲、多尿、体重減少などの糖尿病(高血糖)症状の出現後おおむね3か月以内にケトーシスあるいはケトアシドーシスに陥る
-
糖尿病の診断早期より継続してインスリン治療を必要とする
-
膵島関連自己抗体が陽性である
-
膵島関連自己抗体が証明できないが、内因性のインスリン分泌が欠乏している
上記1~3を満たす場合「急性発症1型糖尿病糖尿病(自己免疫性)」と診断する。
1.2.4を満たす場合「急性発症1型糖尿病」と診断してよい。
内因性インスリン分泌の欠乏が証明されない場合、あるいは膵島関連自己抗体が不明の場合は診断保留とし期間をおいて再評価する。”[3]
緩徐進行1型糖尿病
緩徐進行1型糖尿病の診断基準は以下のとおりです。
“
-
経過のどこかの時点でグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)抗体もしくは膵島細胞抗体(ICA)が陽性である
-
糖尿病発症(もしくは診断)時、ケトーシスもしくはケトアシドーシスはなく、直ちには高血糖是正のためインスリン治療が必要とならない
上記1、2を満たす場合「緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)」と診断する。”[4]
2型糖尿病の診断基準は?
2型糖尿病の日本糖尿病学会が出している糖尿病診療ガイドライン2019では以下のとおりです。
“
-
糖尿病型を2回確認(1回は必ず血糖値で確認)
-
糖尿病型(血糖値に限る)を1回確認+慢性的高血糖症状の確認
-
過去に「糖尿病」と診断をされた証拠がある”[5]
糖尿病の診断には慢性的な高血糖状態を確認し臨床所見、症状や家族歴などを参考にしながら総合的に判断します。
糖尿病の診断は合併症を引き起こす慢性的な高血糖状態の患者を的確に診断し、早期治療を可能にすることにあります。
1型糖尿病の原因/ウイルスとの関連
1型糖尿病は自己免疫によって引き起こされる病気です。
原因はまだ不明な点もありますが、90%が自己免疫性で残りの10%が特発性といわれています。
外から侵入した敵から守るために働くはずの免疫システムですが、何かのきっかけで間違ってβ細胞を攻撃して破壊してしまいます。
また、ウイルスの感染との関連を示すような報告もあるようです。エンテロウイルス、ムンプス、サイトメガロウイルス、麻疹、レトロウイルスなどがそれにあたります。
2型糖尿病と違って生活習慣が発症には無関係というところは重要です。
1型糖尿病の原因/大人と子供での違いや遺伝は関係あるか
1型糖尿病のうち子供の時期に発症するものは小児1型糖尿病と呼ばれています。
原因自体はよくわかっていませんが何らかの遺伝要因が関連して発症することはあるのは事実です。
1型糖尿病の親の子が1型糖尿病を発症する確率は2型糖尿病の子が2型糖尿病を発症する確率よりもずっと低いといわれています。
また、先天性の病気でも生活習慣が関係する病気でもありません。
1型糖尿病は思春期に発症することが多い病気ですが、大人になって中年以降に発症することもあります。
1型糖尿病の原因/ストレスは関係するか
ストレスは血糖値を下がりにくくすることがわかっています。
コルチゾール、アドレナリンといったホルモンはストレスを感じたときに分泌されます。これらは血圧、心拍数に加えて血糖値も上げてしまうホルモンです。
血糖値を下げるホルモンはインスリンだけですが、上げるホルモンはいくつもあるためストレスにも注意が必要です。
ストレスによって血糖値が高い状態が続くと様々な合併症を引き起こします。
1型糖尿病は自己免疫が関係する病気のため、直接の原因ではないとしても高血糖状態を続けることは体にとっても良くありません。[6]
1型糖尿病と2型糖尿病の人はどれくらいいる?/有病率は
1型糖尿病の人は日本にはどれくらいいるのでしょうか。
厚生労働省の調査では1型糖尿病の患者数は10万〜14万人で、有病率は0.09%〜0.11%で10万人あたり約90人〜110人とのことです。
また、発症のピークは思春期にあり、思春期を越えると発症率は大きく減少します。[7]
2型糖尿病においては「糖尿病の疑いが強くある人」「糖尿病の可能性を否定できない人」の合計が2000万人いるといいます。
「糖尿病が強く疑われる人」の有病率は男性16.3%、女性では9.3%とのことです。
また、年齢が高くなるにつれて有病率も高くなる傾向があります。[8]
1型糖尿病の有名人/日本人では誰がいる
日本人の中で1型糖尿病になった有名人もいます。スポーツ選手を中心に紹介します。
岩田稔(元阪神タイガース プロ野球)
高校2年生で1型糖尿病を発症。
高校卒業時の就職活動で病気を理由に内定を取り消されてしまいました。
その後大学へ進学しドラフトで阪神に入団します。
2021年に引退するまでプロ野球でピッチャーとして活躍しました。
引退後1型糖尿病の支援、啓発活動などを行う株式会社Family Design Mを設立しています。[9]
大村詠一(元エアロビック競技 日本代表)
8歳のときに1型糖尿病を発症後、10歳でエアロビック競技を開始してからは数々の大会で優勝します。
引退後は運動指導や講演活動を通して糖尿病の患者や家族支援、糖尿病の啓発活動に力を入れています。
また、2023年7月には株式会社Family Design Mのアドバイザーに就任しました。[10]
杉山新(元Jリーガー)
2003年ヴァンフォーレ甲府移籍後23歳で1型糖尿病を発症します。
1度は戦力外通告を受けますが病気と付き合いながら34歳まで現役でプレーしました。
引退後もマラソンや講演活動などを通して1型糖尿病の啓発活動を続けています。[11]
1型糖尿病になりながらも前向きにスポーツに励み第一線で活躍した人がいれば励みになりますね。
3人は現在でも1型糖尿病の患者、家族の支援、啓発活動を続けています。
1型糖尿病の治療/インスリン量と回数は
1型糖尿病ではインスリン療法が必須となります。
インスリンは医薬品のため重量などでは表示されず単位で表示されます。インスリンは1単位が0.01mlです。
あくまでも目安ですが、インスリン1単位で血糖値が50mg/dl下がるといわれています。
インスリンは作用時間によって以下に分けられます
-
超即効型
-
即効型
-
中間型
-
配合溶解型
-
持効型溶解
インスリンの量については医師が患者個人の状態に応じて決めます。
基本的には毎食前30分前から食前に即効型か超即効型を1日3回注射して、1日1回の持効型溶解インスリンを打つのが一般的で「強化インスリン療法」と呼ばれています。
1型糖尿病はインスリンが効かない?打たないとどうなる
1型糖尿病の人が生きていくうえでインスリンは欠かせないものです。しかし、できれば「打ちたくない」というのが正直な気持ちではないでしょうか。
もしインスリンを打たなければどうなるのでしょう。
1型糖尿病の人がインスリンを打たなかった場合、重度の高血糖状態に陥ります。高血糖状態になるとのどの渇きや多飲、多尿、体のだるさといった一般的な高血糖症状が出ます。
その後急激に呼吸困難や吐き気、腹痛、意識障害などが起こる「糖尿病ケトアシドーシス」や様々な合併症を引き起こす可能性があるのです。[12]
また、肥満や運動不足の人はインスリンの効き目が弱くなる可能性があります。
運動療法は筋肉に血中の糖を取り込むことでエネルギーとして糖を利用して血糖値を下げたり、インスリンの働きを高めたりする効果が期待できます。
継続して運動することは血糖値を安定化させるために大変重要です。[13]
1型糖尿病と2型糖尿病の鑑別方法は?
1型と2型の2種類ある糖尿病ですが、同じ糖尿病という名前でも1型と2型の鑑別方法はどのようなものがあるのでしょうか。
2型糖尿病は生活習慣が原因となり、高血糖状態が続いた結果発症するため血糖値を主に調べます。
一方1型糖尿病は血糖値に加えてGAD抗体(グルタミン酸脱炭酸抗体)が出ているかどうかを調べて血中に出ていれば1型糖尿病と診断します。
劇症1型糖尿病と急性発症1型糖尿病は2型糖尿病との鑑別は比較的容易ですが、緩徐進行1型糖尿病は注意が必要になります。
劇症1型糖尿病も急性発症1型糖尿病もケトーシスやケトアシドーシスをきたしますが、緩徐進行1型糖尿病に関してはこれらをきたすことなく発症するため一見すると2型糖尿病との区別がつきにくいのです。
治療方針が違うため、2型糖尿病との鑑別は大切です。[14]
1型糖尿病はどんな人がなるか/症状をチェック
1型糖尿病は生まれもってなるような病気ではありません。
思春期の発症が多い事実はありますが、どの年代でも発症する可能性はあります。
1型糖尿病は膵臓β細胞の破壊とHLAなどの遺伝因子に何らかの誘引や環境要因が加わって発症すると考えられています。
また、甲状腺疾患など他の自己免疫疾患の合併も少なくないです。体型や性別も関係はないといわれています。
1型糖尿病になる前には高血糖状態になっている可能性があり以下の症状が突然出る可能性があるのが特徴です。
-
のどがよく渇く(口渇)
-
水を多く飲む(多飲)
-
尿が多く出る(多尿)
-
体重減少
-
だるさが続いて疲れやすい
これらは典型的な高血糖症状です。
1型糖尿病ではインスリンを出す細胞が破壊されるので血糖値が下がらず高血糖が続きます。
もしこれらの症状があるようなら病院で受診しましょう。[15]
1型糖尿病と2型糖尿病の割合は?/併発するのか
1型糖尿病になった人は全糖尿病患者のうち5-10%といわれています。
残りは2型糖尿病患者になるので糖尿病患者のうち約9割が2型糖尿病患者ということです。
1型糖尿病と2型糖尿病の併発については2型糖尿病の治療経過中に1型糖尿病へ移行した患者の報告はあります。
反対に1型糖尿病から2型糖尿病への移行はないようです。[16]
1型糖尿病は突然死のリスクがある?
糖尿病で突然死のリスクがあることは血管の病変によって心臓や脳などの病気を引き起こすことでも知られています。
ここでは糖尿病の治療経過中に起こりうる低血糖の危険性について見ていきます。
1型糖尿病では血糖値を下げるインスリンが欠かせません。
しかし、インスリンを打った後の行動によっては過剰な血糖値の低下、「低血糖」を起こし、場合によっては命の危険もあります。
低血糖の症状としては以下のものがあります。
-
発汗
-
動悸
-
手のふるえ
-
めまい
-
脱力感
などです。
糖尿病の人は基本的に血糖値を測定するとは思いますが、食前など血糖値が下がっている状態でインスリンを打ち、そのまま食事を撮らなかったり、運動してしまったりすると過剰に血糖値が下がってしまいます。
血糖値が70mg/dlを切ると低血糖症状が出現し、さらに50mg/dl以下になるとけいれんや昏睡状態になり命に危険が及びます。
Q&A
1型糖尿病に関するよくある質問は以下のとおりです。
糖尿病 1型と2型はどう違うんですか?
1型糖尿病とはすい臓のインスリンを出すβ細胞(ベータさいぼう)が壊れた状態の病気です。
β細胞からインスリンが出なくなるため治療にはインスリン製剤が必要です。
若い人が中心に発症しますが幅広い年代でも発症し、生活習慣が原因となる2型糖尿病とは治療も原因も大きく違います。
一方、2型糖尿病はインスリンが出にくくなったり、インスリンの効き目が悪くなったりするために血糖値が高い状態が続くのが特徴です。
原因は遺伝的な要因に加えて運動不足、食べ過ぎ、肥満といった生活習慣が関わっています。
1型糖尿病は何が原因?
1型糖尿病は自己免疫によって引き起こされる病気です。
原因はまだ不明な点もありますが、90%が自己免疫性で残りの10%が特発性といわれています。
外から侵入した敵から守るために働くはずの免疫システムですが、何かのきっかけで間違ってβ細胞を攻撃して破壊してしまいます。
また、ウイルスの感染との関連を示すような報告もあるようです。エンテロウイルス、ムンプス、サイトメガロウイルス、麻疹、レトロウイルスなどがそれにあたります。
2型糖尿病と違って生活習慣は発症には無関係というところは重要です。
1型糖尿病のうち子供の時期に発症するものは小児1型糖尿病と呼ばれています。
原因自体はよくわかっていませんが何らかの遺伝要因が関連して発症することはあるようです。
1型糖尿病の親の子が1型糖尿病を発症する確率は2型糖尿病の子が2型糖尿病を発症する確率よりもずっと低いといわれています。
また、先天性の病気でも生活習慣が関係する病気でもありません。1型糖尿病は思春期に発症することが多い病気ですが、大人になって中年以降に発症することもある病気です。
ストレスは血糖値を下がりにくくすることがわかっています。コルチゾール、アドレナリンといったホルモンはストレスを感じたときに分泌されます。
これらは血圧、心拍数に加えて血糖値も上げてしまうホルモンです。
血糖値を下げるホルモンはインスリンだけですが、上げるホルモンはいくつもあるためストレスにも注意が必要です。
ストレスによって血糖値が高い状態が続くと様々な合併症を引き起こします。
1型糖尿病は自己免疫が関係する病気のため、直接の原因ではないとしても高血糖状態を続けることは体にとっても良くありません。
1型糖尿病は治りますか?
1型糖尿病を発症すると現在の医療では完治することはありません。
しかし、内服と食事に注意して適度な運動を継続することで病気のない人と同じような生活を送ることはできます。
中にはプロのスポーツ選手になって活躍した人もいるので身体機能的には決して劣る病気ではないです。
インスリンは手放すことはできませんが、血糖値をコントロールしながら合併症を予防することで安定した生活を送ることができます。
1型糖尿病の生存率は?
男性の70歳生存率は一般健常者が76%に対して1型糖尿病の人は47%です。
一方女性は健常者83%に対して1型糖尿病の人は55%といわれています。
1型糖尿病自体が余命を短くするというよりは、経過の中で合併症にかかって様々な病気を併発することが原因です。
血糖コントロールをしっかりして食事に注意しながら適度な運動を継続すれば、健常者と同じような生活を送ることができます。[17]
まとめ
いかがでしたでしょうか。
ここまで1型糖尿病の症状、診断基準や原因について解説し、1型糖尿病になった有名人やその後の活動を紹介しました。
-
1型糖尿病は劇症1型糖尿病、急性発症1型糖尿病、緩徐進行1型糖尿病に分類される
-
1型糖尿病ではインスリンを出す膵臓のランゲルハンス島β細胞が壊れるためインスリンを出すことができない
-
1型糖尿病の発症には遺伝要因に加えてGAD抗体などの自己抗体が関係している
-
1型糖尿病になった有名人には岩田稔、大村詠一、杉山新などがいて、それぞれプロのスポーツ選手として活躍し引退後は1型糖尿病の啓発活動を続けている
-
糖尿病患者のうち1型糖尿病と2型糖尿病の割合は1:9程度で2型糖尿病が多い
-
1型糖尿病は血糖値や食事などの管理をしっかりすることで、健常者と同じ生活を送ることができる病気である
血糖値が不安定になり合併症が進行すると様々な症状が出るため怖い病気ではありますが、食事に注意し、血糖値をコントロールしながら適度に運動する習慣をつけて生活していれば必要以上に恐れる必要はない病気でもあります。
この記事が1型糖尿病に関する知識を得るための役に立てば幸いです。
参考文献
[7]平成 29 年度 厚生労働科学研究補助金 1 型糖尿病の実態調査、客観的診断基 準、日常生活・社会生活に着目した重症度評価の作成に関する研究
[11]杉山新公式ホームページ
[12]急激な高血糖をきたす「糖尿病ケトアシドーシス」に注意
[15]糖尿病かどうか症状をチェックしよう!その原因について説明