自立支援医療(精神通院医療)の概要と根拠となる法律について
精神疾患・精神障害の治療は長期にわたることも多いです。思うように就労ができなかったり、休職せざるを得なかったりする方もいらっしゃいます。
こころの病気の治療に際し、経済的な負担をなるべく軽くするための公的な制度が自立支援医療(精神通院医療)です。
精神疾患の治療を継続して、日常の中で障害となる症状を軽減・除去し、自立した生活を送ることを目指すためのものになります[1,2,3]。
元々は、精神障害がある方への福祉サービスは精神保健福祉法に基づき行われていました。医療費の公的補助はこの法律の第32条に基づいていたものです。
平成18年に障害の種別に関わらず福祉サービスの提供などを一元化するため、障害者自立支援法が制定され、自立支援医療についても根拠が移行しました。
さらに平成25年には障害者総合支援法となったのです[3,4]。
対象者はどのような人?
対象となるには二つの条件を満たす必要があります。一つは精神保健福祉法第5条に定める精神障害(てんかんを含む)を持つ方です[2]。
対象となる疾患・障害の例として、具体的には下記のようなものがあります。
〈自立支援医療(精神通院医療)の対象疾患の例〉
-
統合失調症
-
うつ病
-
双極性障害
-
精神作用物質(アルコールや薬物など)の急性中毒、依存症
-
認知症
-
高次脳機能障害
-
知的障害、心理的発達遅滞
-
ストレス関連障害(PTSDなど)
-
不安障害(パニック障害)
-
てんかん
もう一つの条件は、通院によって、継続的に治療を続ける必要があるということです[2]。
なお、世帯の所得が一定以上(市町村民税235,000円以上の世帯)である場合、原則はこの制度の対象外です。
しかし、後述する「重度かつ継続」に該当すると判断された場合のみ負担軽減の措置がとられます(令和5年8月現在)[5]。
医療費の自己負担額について
自立支援医療(精神通院医療)の対象者と認定されると、その疾患・障害やそれに関連した症状の通院治療にかかる医療費の自己負担は1割になります。
実際に公費の補助がおりるのは、かかった費用から公的医療保険でまかなわれた医療費を除き、さらに1割になるまでの部分です[5]。
例えば、もともと医療費が3割負担の方で考えてみましょう。総額10,000円の医療費がかかったとすると、本来の窓口での支払いは3,000円です。
しかし、この制度を利用すれば、ご本人の支払う額は10,000円の1割の1,000円で済みます。残りの2,000円は公費でまかなわれるのです。
なお、対象となるのは診察費だけではなく、薬局に支払う薬の費用・医師の指示のもとで行う訪問看護の費用なども含まれます。
負担上限月額
先の例では医療費の総額が10,000円としたので、自己負担額は1,000円でした。1,000円であれば負担は軽いと感じる方が多いでしょう。
では、もし医療費の総額が100,000円だったらどうでしょう。1割になっても自己負担額は10,000円です。
負担を重く感じてしまう方もいるかもしれません。また、1回毎では少額でも、継続的に支払いが生じると苦しくなる方もいるでしょう。
このような事態を避けるため、市町村民税非課税世帯については、一月当たりの自己負担額の上限が決められているのです。上限額は世帯の所得の区分によって異なります[5]。
また、市町村民税課税世帯の方に関しては、「重度かつ継続」に該当すると判断されると、負担の上限額が設定されます。
本来は自立支援医療(精神通院)の対象外である一定額以上の所得がある世帯の方でも、重症かつ継続に該当すれば対象となり、さらに月額上限が20,000円になるのです。
ただし、世帯所得が一定以上の方については令和6年3月31日までの特例措置となっていますのでご注意ください(令和5年8月現在:今後延長や変更になる可能性もあるため必要時は最新情報をご確認ください)[5]。
重度かつ継続とは、長期に通院治療で高額な医療費を払い続ける必要がある方について、通常より負担が軽くなるように定められたものです。
重度かつ継続に当たるのは下記のいずれかを満たす方です[5]。
〈重度かつ継続の該当者〉
-
特定の精神疾患の方;統合失調症、躁うつ病・うつ病、てんかん、認知症等の脳機能障害、薬物関連障害(依存症等)の方
-
精神医療に一定以上の経験を有する医師が判断した方
-
医療保険の多数回該当の方
上記のうち、「多数回該当」とは公的医療保険の高額療養費に直近の12ヶ月で3回該当した時に、4回目以降からは自己負担額が引き下げられる制度のことです[6]。
この多数回該当に当たる方も重度かつ継続に該当すると判断されます。
負担額は世帯所得別に、次のようになっています。
|
市町村民税の額 |
一般 |
重度かつ継続 |
一定所得以上 |
市町村民税 235,000円以上 |
対象外 |
月額上限20,000円 (※特例措置) |
中間所得2 |
市町村民税 33,000円以上235,000円未満 |
1割負担 |
月額上限10,000円 |
中間所得1 |
市町村民税 33,000円未満 |
1割負担 |
月額上限5,000円 |
低所得2 |
市町村民税非課税 低所得1を除く |
月額上限5,000円 | |
低所得1 |
市町村民税非課税 本人または保護者の年収が80万円以下 |
月額上限2,500円 | |
生活保護 |
生活保護世帯 |
0円 |
(表は[5]を元に作成)
対象外になるのはどんな時?
自立支援医療(精神通院医療)の認定がおりても、すべての医療費が1割になるわけではありません[7]。対象外になるのはどのようなケースでしょうか。
まず、一つは入院の医療費です。この制度は、あくまでも通院で受ける医療にかかる費用に対してのものになります。
また、公的保険の適用外の医療もこの制度の対象外です。
自立支援医療(精神通院医療)では、制度が利用できる医療機関が決まっています。都道府県や指定都市が指定した医療機関でなければ、対象外になります。
病院や診療所の他に、薬局・訪問看護ステーションなども含めて、すべて指定自立支援医療機関である必要があるのです。
さらに、受給者証にその医療機関が記載されていなければいけません。精神科や心療内科の病院やクリニックの多くは制度が利用できますが、全てではありません。
気になるときは確認してみると良いでしょう。
もう一つ、注意すべきは、申請理由になった精神疾患・精神障害やそれに関連した症状の治療でなければ対象外になることです。
例えば、うつ病のせいで不眠が強く、お薬を出してもらうのは対象になります。
一方で、うつ病で通院中に風邪をひき、受診時に一緒に薬を処方してもらうと、感冒の治療薬は対象外となってしまうのです。
医療費の公的補助を受けるために必要なもの
自立支援医療(精神通院医療)の対象と認められた方には、自立支援医療受給者証と自己負担上限額管理票の二つが発行されます。
これらを都度、医療機関に提示することで、医療費の補助を受けることができます[7]。
自立支援医療(精神通院医療)の新規申請手続きについて
新規申請にあたっては、必要書類を揃えてお住まいの市区町村の役所の担当窓口に届出をしなければなりません。
担当課の名称は自治体ごとに異なりますが、「障害福祉課」「保健福祉課」などとなっています。
まず必要なのは、医師の診断書です。自立支援医療制度の対象者にあたるかもしれないと考えた時は、主治医に相談をしてみてください。
診断書を記入してもらったら、世帯の収入を証明する書類・健康保険証・マイナンバーカードや通知カードなど個人番号がわかるもの・本人確認のための身分証明書などを揃えましょう[7]。
必要なものは、個人の状況によって変わるので、一度市町村の担当課窓口に電話などで問い合わせをするとスムーズです。
申請書の記入も必要ですが、こちらは多くの場合、窓口で入手することができます。
市町村のサイトから様式をPDFファイルなどでダウンロード・印刷できる自治体もありますので、その場合は事前に記入していくと時間短縮になります。
自立支援医療(精神通院医療)の申請ための診断書について 料金は高いの?
自立支援医療(精神通院医療)の申請に必要な医師の診断書の交付を受ける際には、診察費と別に診断書の料金を払うことが必要です。
実はこのような診断書については、病院側が料金を決めて良いことになっています。
多くの場合は5,000円〜10,000円程度ですが、気になる方は事前に問い合わせをすると良いでしょう。
自立支援医療受給者証はいつ届くの?その前の医療費の支払いは?
自立支援医療の申請をすると、審査があり、認定がおりてから受給者証が発行されます。そのため、申請してすぐに受給者証を受け取れるわけではありません。
自立支援医療受給者証が発行され、お手元に届くまでには、申請から1〜数ヶ月ほどかかります。
申請した日から受給者証が届くまでの医療費については、申請書の控えを提示して1割の支払いとなったり、後ほど還付で対応したりすることがあります[8]。
ただし、全ての自治体・医療機関で対応できるわけではないため、申請時に確認をしましょう。
自立支援医療(精神通院医療)の更新について
受給者証は、年に1回更新が必要になります。有効期限が切れてしまうと医療費の補助が受けられなくなってしまうのでご留意ください。
更新毎に医師の診断書の提出が必要になりますが、病気の状態が変わらず治療方針の変更がないと判断されれば、2回に1回は省略可能な場合もあります[7]。
Q & A
自立支援医療(精神通院医療)の概要は?
自立支援医療とは、障害のある方の医療費の負担を軽くするために定められた制度です。
その中でも、精神疾患・精神障害のある方を対象に、入院でない医療にかかる負担軽減を図る制度が自立支援医療(精神通院医療)です[1]。
具体的には、医療費の自己負担が総額の1割になります。
医療費の総額に加入中の公的医療保険が適用されてから、残りの自己負担分のうち1割になるまでが公費補助の対象になるのです[5]。
この制度の対象は診察にかかる費用だけではありません。薬局に支払う薬の費用や医師の指示により行う訪問看護の費用なども制度の対象となり、やはり1割負担となります。
また、市町村税非課税世帯では自己負担額の上限も定められています。毎月の自己負担額を超えると、それ以上の費用はかかりません[5]。
一方、市町村税課税世帯では、疾病の状態などによっては「重度かつ継続」に該当します。
重度かつ継続と判断されるとやはり自己負担額の上限があり、毎月の支払いがその範囲までになります[5]。
ただし、自立支援医療の対象者となっても、全ての医療費が1割になるわけではありません。下記のように、いくつか対象外になるものがあります。
〈自立支援医療(精神通院医療)の対象外となるもの〉
-
入院の医療費
-
公的保険の適用外の医療費
-
指定された医療機関でないところへ受診した時の医療費
-
主たる精神疾患・精神障害やそれに関連した症状の治療でない医療費
精神通院医療の対象となる病名は何ですか?
自立支援医療(精神通院医療)の対象となるのは、精神科や心療内科などで治療を受けるような、こころの病気・脳の病気です[2]。
具体的な対象疾患の例としては、下記のようなものがあります。
〈自立支援医療(精神通院医療)の対象疾患の例〉
-
統合失調症
-
うつ病
-
双極性障害
-
精神作用物質(アルコールや薬物など)の急性中毒、依存症
-
認知症
-
高次脳機能障害
-
知的障害、心理的発達遅滞
-
ストレス関連障害(PTSDなど)
-
不安障害(パニック障害)
-
てんかん
自立支援医療と精神障害者保健福祉手帳の違いは?
どちらも精神疾患・精神障害のある方のための制度ですが、いくつかの点において違いがあります。
- 受けられるサービスの違い
自立支援医療とは、障害のある方の医療費の負担を軽くするために定められた制度です
その中でも、精神疾患・精神障害のある方を対象に、入院でない医療にかかる負担軽減を図る制度が自立支援医療(精神通院医療)です[1]。
具体的には、医療費の自己負担が総額の1割になります。また、疾病の状態や世帯の所得によっては、自己負担額の上限も定められています。
一方、精神障害者保健福祉手帳は、精神障害のために長期にわたり日常生活に支障がある方のための制度です[9]。障害の程度により1〜3級の等級に分けられます。
等級により、さまざまなサービスを利用することができます。例えば、税金の控除・公共料金の割引・福祉用具の貸与・手当の支給などです。
どのようなサービスが受けられるかは自治体によって変わってきます。
- 申請できる時期の違い
自立支援医療(精神通院医療)は特に初診日から申請できるまでの時間的な制約はありません。
一方で精神障害者保健福祉手帳は初診日から6ヶ月以上経過しないと診断書の作成ができないことになっています[9]。
- 有効な期間の違い
自立支援医療(精神通院医療)は1年間たつと有効期限が切れてしまいますが、精神障害者保健福祉手帳の更新は2年毎です[7,9]。
ただし、自立支援医療(精神通院医療)は、更新時の医師の診断書は場合によっては2回に1回は省略できることがあります。
自立支援医療 何ヶ月通院?
自立支援医療(精神通院医療)は特に初診日から申請できるまでの時間的な制約はありません。
なるべく早く公費補助を受けるために、診断書を受け取ったら早いうちに申請手続きを行うことをお勧めします。
なお、精神障害者保健福祉手帳については初診日から6ヶ月経過しないと申請することができません[9]。
自立支援医療と生活保護の併用はできるの?
生活保護と自立支援医療(精神通院医療)については、併用することができます。基本的には、自立支援医療が優先されることになっています[10]。
例えば、てんかんと高血圧の治療を一緒に受けているのであれば、てんかんに関わる治療は自立支援医療制度の対象です。
そして、高血圧の治療については自立支援医療の対象外ですので、生活保護の医療扶助として医療費がまかなわれるのです。
まとめ
自立支援医療(精神通院医療)の概要、認定の要件や申請の方法などについてご説明しました。精神疾患・精神障害の通院治療は長期にわたることも多いです。
このような制度をうまく利用して、経済的な不安を少しでも軽くすることは、治療の継続においてとても重要です。
自立支援医療制度の対象になるか、また負担額の上限がいくらになるかなどは個人の状況によって異なります。まずは受診中の医療機関で相談されると良いでしょう。
早期から補助を受けるためにも、診断書が交付されたら、できるだけ早いうちに申請手続きを行うことをお勧めします。
参考文献
[8]船橋市|自立支援医療(精神通院)は申請した日から1割になりますか