パニック障害とは
パニック障害はめまいや動悸、呼吸が苦しいなどの身体症状と、不安、恐怖などの精神症状が同時に起こる病気です。
これらの症状は突然、理由もなくあらわれ、1時間以内に症状が消失することがほとんどです。
病院に受診して検査を受けても、異常が見つからず、何も診断されずに帰宅するケースが多いといわれています。
これは、パニック障害の症状がめまいや動悸など身体的なものであるため、診察した医師が循環器、呼吸器などの内科的な検査が必要と判断するためです。
実際、パニック障害の原因は内科的なものではなく、脳の機能異常によるものなので受診した際に受けた検査では異常が発見できないのです。
これからパニック障害の初期症状、症状が悪化した場合にどうなるか、セルフチェック方法について詳しく解説していきます。
パニック障害の症状
パニック障害の症状は、身体症状と精神症状に分けられ、これらは同時に出現します。
代表的な症状は以下の通りです。[1]
身体症状 |
精神症状 |
|
|
パニック障害の初期症状
パニック障害の初期症状はある日突然、動悸や呼吸困難、めまいなどの身体症状が出現します。
同時に、「このまま死んでしまうのではないか」「自分が自分でなくなってしまう」などの恐怖、不安という精神症状もあらわれます。
これらを「パニック発作」といい、発作は10分以内にピークを迎え、1時間以内には症状が消失することがほとんどです。
パニック障害の初期症状とは、このパニック発作が起こることです。[1]
パニック障害が悪化するとどうなる?
パニック発作をくり返し経験すると、「予期不安」と「広場恐怖」を感じるようになります。
予期不安とは、パニック発作がくり返し起こることで「また発作が起こるのではないか」と不安、恐怖心をもつ状態です。
パニック発作が起こらなくなっても、この予期不安は残るともいわれています。
広場恐怖とは、以前パニック発作が起こった場所や、パニック発作が起きてもすぐに逃げ出せない場所を恐れて避けるようになることです。
すぐに逃げ出せない場所とは、電車やバス、高速道路や渋滞中の車などです。ほかにも、美容院や歯医者などの身動きができない場所も避けるようになります。
くり返されるパニック発作に加えて、予期不安と広場恐怖を感じることにより、一人で外出が難しくなり、社会生活に支障が生じていきます。
パニック障害は良くなったり、悪くなったりをくり返して慢性の経過をたどることが多い病気です。さらにうつ病を併発してしまうケースもあります。
パニック障害の症状をセルフチェック
パニック障害は精神科、心療内科、メンタルクリニックで診断されます。
しかし、パニック発作が起こった際、身体的な症状に注目されがちで症状だけを診てこれらの病院へ受診をすすめられることはほとんどありません。
そのため自身に起きている症状がパニック障害であるかの判断をするため、セルフチェックをおこないましょう。
以下の症状のうち、4つ以上の項目にチェックがつく場合はパニック発作の可能性が高いとされています。
“
-
動悸、心悸亢進、または心拍数の増加
-
発汗
-
身震いまたは震え
-
息切れ感または息苦しさ
-
窒息感
-
胸痛または胸部不快感
-
嘔気または腹部の不快感
-
めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
-
現実感消失(現実でない感じ)、または離人症状(自分が自分でない感じ)
-
コントロールを失うのではないか、または気が狂うのではないかという恐怖
-
死ぬのではないかという恐怖
-
異常感覚(感覚まひまたはうずき感)
-
冷感または熱感
”[2]
パニック障害になりやすい人の特徴はあるの?
パニック障害は10代後半から30代に発症することが多く、男性よりも女性の方がなりやすいといわれています。
パニック障害になりやすい人の特徴は以下の通りです。
-
真面目、完璧主義
-
感受性が高い
-
周りを気にする
-
こだわりが強い
-
疲れがたまっている
-
過去にうつ病などにかかったことがある
これからパニック障害になりやすい人の特徴を詳しく解説していきますが、あてはまるものがあってもそれが必ずパニック障害につながるわけではありません。
では、それぞれについて解説していきます。
真面目、完璧主義
物事に対して責任感を持ってしっかりと取り組む人です。自分のキャパシティーを超えて無理をしてしまい、心身に不調をきたしてしまうことがあります。
また、できた部分よりもできなかった部分を気にしてしまい、ストレスを感じてしまいます。
感受性が高い
感情に敏感で共感力が高い人です。ネガティブな感情も受け取りやすくストレスを感じてしまいます。
周りを気にする
周りに気を配り、気遣いができる人です。一方で周囲からどう思われているかを気にしてしまい、ストレスを抱えてしまいます。
こだわりが強い
自分のこだわりから外れてしまったり、こだわりで対処できない物事に対して、不安を感じたり、嫌悪感や自信低下を招いてしまいます。
疲れがたまっている
疲れや睡眠不足はパニック障害を起こす要因の一つといわれています。
過去にうつ病などにかかったことがある
うつ病、自律神経失調症などにかかったことがある人は、パニック障害になりやすいといわれています。[3]
パニック障害になるきっかけは?
パニック障害の原因は、まだはっきりとは分かっていません。
しかし、パニック障害を経験した方の多くが、最初に発作が起こるきっかけとしてストレスや疲労がたまった状態だったといっています。
ストレスを感じると、脳から「ノルアドレナリン」が分泌されて体は興奮状態となります。
そして、ストレスから身を守ろうとして、動悸や呼吸困難などが起こることがあるのです。
ノルアドレナリンが増えすぎないようにコントロールしているのが「セロトニン」というホルモンです。
セロトニンが分泌されて元の量から減ってしまうことで、集中力の低下や気持ちが落ち込んでしまうなどの反応が出てしまいます。
この2つのホルモンは密接に関係しており、ストレスを感じることでパニック発作の身体症状、精神症状を起こす原因となっているのではないかといわれています。
完全に原因が解明されていないパニック障害ですが、発症のきっかけとなるストレスや疲労をためないよう日々の生活に気を付けていきましょう。
パニック障害の治し方
パニック障害の治療法は、主に身体症状を緩和する「薬物療法」と、精神症状を緩和する「行動療法」を組み合わせる方法です。2種類の治療法について、詳しく解説します。
薬物療法
薬物療法ではパニック発作を抑えるために抗うつ薬が使用されます。しかし、抗うつ薬は効果があらわれるまでに2週間ほどかかる薬です。
そのため、発作が起きたときに症状を抑える薬として抗不安薬を併用します。
薬物療法の注意点として、パニック障害の症状がなくなったからといって自己判断で服用を中止することはやめましょう。
薬の効果で一時的に症状がなくなった可能性もあります。
症状が軽快していると医師が判断した場合、徐々に薬を減量し、最終的に薬が必要なくなることが目標です。
認知・行動療法
パニック障害では、危険が迫っていない状況なのに危険を感じたり、パニック発作が起きた際に「このまま死んでしまうかもしれない」という偏った思考、行動をしてしまいます。
「認知療法」は、自分が偏った考えをしていることに気づき、考え方を修正していく治療法です。
「行動療法」は、以前発作が起きた状況や場所など不安がある状況にあえて身を置くことで、徐々に心と体を慣らしていく治療法です。
行動療法は「段階的暴露療法」ともよばれ、成功体験を重ねていくことで自信がつき、症状が軽快していくことを目的としています。
パニック障害に似た病気
パニック障害の症状で医療機関に受診しても、すぐにパニック障害と診断されることは稀だといわれています。
それは動悸や呼吸困難などの身体症状があるため、その原因を調べる検査が優先しておこなわれるためです。
そして身体症状とともにあらわれる「このまま死んでしまうかもしれない」という不安は、パニック障害以外の病気でも同様の不安を感じるため、そこからパニック障害ではないかと疑うことは難しいのです。
パニック障害の症状と似ている、判別が必要な代表的な病気はこちらになります。
似ている病気 |
症状 |
心筋梗塞、狭心症 |
動悸、胸部圧迫感 |
貧血 |
呼吸のしづらさ、めまい、動悸 |
低血糖 |
発汗、震え 動悸 |
喘息 |
呼吸困難 |
甲状腺機能亢進症 |
動悸、呼吸苦、めまい |
Q&A
パニック障害についてよくある質問をまとめました。
パニック障害の前兆は?
パニック障害に前兆はありません。ある日突然、何の前触れもなく動悸や息苦しい感じ、めまいなどの症状が現れるのが特徴です。
パニック障害の軽度の症状は?
パニック障害の症状が軽度なものとして、漠然とした不安や軽い動悸、軽い息苦しさを感じることが挙げられます。
症状が軽度であっても、繰り返し起こることで「この症状がどんどん強くなるのではないか」とさらに不安になり、症状が悪化することがあります。
パニック障害かどうか確認する方法は?
パニック障害かどうかは、医療機関に受診して医師の診断が必要となります。
しかし、受診前に自分の症状がパニック障害かどうかの目安をつけるためのセルフチェック方法はあります。
以下の症状のうち、4つ以上の項目にチェックがつく場合はパニック発作の可能性が高いとされています。
“
-
動悸、心悸亢進、または心拍数の増加
-
発汗
-
身震いまたは震え
-
息切れ感または息苦しさ
-
窒息感
-
胸痛または胸部不快感
-
嘔気または腹部の不快感
-
めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
-
現実感消失(現実でない感じ)、または離人症状(自分が自分でない感じ)
-
コントロールを失うのではないか、または気が狂うのではないかという恐怖
-
死ぬのではないかという恐怖
-
異常感覚(感覚まひまたはうずき感)
-
冷感または熱感
”[2]
パニック障害はどんな時におきますか?
パニック発作は決まった状況で起こるものではなく、場所や状況がどのような場合でも突然起こることが特徴です。
例えば自身ではストレスを感じていないと思っているリラックスしている時間や寝ている間にも発作は起こります。
パニック障害の人に言ってはいけない言葉はありますか?
パニック障害の人と一緒に過ごす時間が長くなると、ついつい「また発作?」「気の持ちようだよ」「大丈夫」との言葉をかけてしまうこともあるでしょう。
しかしこれらの言葉に傷ついたり、症状が悪化するきっかけになる可能性があります。
パニック障害を自力で治す方法はあるの?
医療機関の受診や薬の服用に抵抗を感じて、パニック障害を自力で克服しようと考える人もいるかもしれません。
しかし、それらの方法は逆に症状を悪化させる可能性があります。パニック障害は早期に適切な治療を受けることで完治することが多い病気です。
自分がパニック障害かも。と感じたら、早めの受診をおすすめします。
まとめ
パニック障害の初期症状、なりやすい人の特徴、原因、治療法について解説していきました。
パニック障害の初期症状は、動悸や呼吸困難などの身体症状と恐怖や不安を感じる精神症状が、ある日突然同時に起こることです。
これを「パニック発作」といい、発作が繰り返し起こることで「パニック障害」へと移行していきます。
パニック障害は発作が起こってもすぐに診断がつくことは珍しく、発作の原因が分からない時間が続く間に症状が悪化してしまう病気です。
この記事を読んで、「自分はパニック障害かもしれない」と感じた人は、早めに医療機関に受診をしましょう。
パニック障害は早期に治療を開始することで、症状が悪化することを予防できます。
また、動悸や呼吸困難などの身体症状の中には、パニック障害以外の病気が隠れている可能性もあります。
セルフチェックやなりやすい人の特徴から、「自分はパニック障害だ」と判断するのではなく、必ず医療機関に相談しましょう。
参考文献
[1]厚生労働省 心もメンテしよう~若者を支えるメンタルヘルスサイト~ こころの病気について知る
[2]医学書院 DSM-Ⅳ-TR精神疾患の分類と診断の手引き pp171-174
[4]パニック障害における発症年齢と人格特性の関連性についての検討