低血糖とは?
低血糖とは、血液中の糖分(血糖値)が下がり、「お腹がすく、冷や汗が出る、ドキドキする」などの症状が現れる状態です。
一般的に血糖値は空腹時の血糖が70〜110mg/dLとされており、血糖値が60〜70mg/dL未満になると低血糖症状がみられます。[1]
低血糖状態が遷延し重症化すると昏睡・死亡にいたることも
何度も低血糖を繰り返している場合や、乳幼児・高齢者では「お腹がすく、冷や汗が出る、ドキドキする」などの自覚症状なく、いきなり意識混濁といった中枢神経症状が現れることがあります。
このような低血糖を「無自覚性低血糖」と呼び、特に注意が必要です。
中枢神経症状は血糖値が50mg/dL未満になると「ぼんやりする・ぼーっとする・ろれつが回らない」などの症状が出ます。
そのような状況が数時間以上続くと最悪の場合、昏睡・死亡にいたることもあるため、早急な対応が必要です。
低血糖の原因
低血糖の原因には、薬によるものと病気によるものとがあります。それぞれについて詳しく解説します。
薬が原因の低血糖
薬の中で低血糖を起こすリスクが最も高いのは糖尿病治療薬です。まずは、糖尿病治療薬について見ていきましょう。
糖尿病治療薬は低血糖リスクが高いため注意!
薬の中で低血糖を起こすリスクが最も高いのは糖尿病治療薬です。
糖尿病治療薬には多くの種類がありますが、その中でも特に副作用として低血糖の頻度が多いのはインスリン製剤です。インスリンには血糖を下げる作用があります。
インスリン製剤を使った治療は、インスリンを外から注射で補うものです。そのため、ほかの薬より低血糖が起こりやすくなります。
飲み薬で低血糖を起こすリスクが高いのは、膵臓からのインスリン分泌を促すSU(スルホニルウレア)薬や速効型インスリン分泌促進薬です。
これらの薬を使用中に低血糖発作が起きた場合は、薬の量が多すぎることが予想されます。血糖値をこまめに測り、自分にあった薬の量を医師とともに決めていきましょう。
そのほかの糖尿病治療薬は、単独では低血糖を起こす可能性は低いです。
しかし、前述のインスリン製剤、SU薬、速効型インスリン分泌促進薬と一緒に使うと低血糖リスクが高まるため、併用時は注意が必要です。
糖尿病治療薬以外の薬が原因のことも
薬の副作用として低血糖が起きやすいのは糖尿病治療薬ですが、まれにそのほかの薬の副作用として低血糖が現れる場合があります。
代表的な薬を以下に示します。
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一部の抗不整脈薬
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キノロン系抗菌薬
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β遮断薬
「糖尿病の薬を使っていないのに低血糖発作が現れた」という場合は、「いつもと薬を変えていないか?」と考えてみましょう。
疑わしい薬の中止や減量などで発作が現れなくなれば、その薬が原因だったと分かります。
薬が原因でない低血糖
薬以外でも、病気が原因で低血糖が引き起こされることがあります。ここからは低血糖の原因となる糖尿病以外の病気について解説します。
反応性低血糖
食事をとったあとに生じる低血糖のこと。
血糖値が急激に上がり、インスリン分泌が追いつかず、食後2〜3時間後にインスリンに反応して低血糖が生じます。
通常の低血糖では次の食事の直前や運動後などの空腹時に発作が起きますが、反応性低血糖では食事をとることで低血糖発作が引き起こされる、という点が特徴的です。
病気によって胃を切除した人や、高カロリー輸液を中止した後、主食を短時間で大量に食べたり、お酒を飲みながら糖質を多く食べた場合に出やすい症状です。[1] [2]
インスリノーマ
インスリンを分泌する膵臓のβ細胞に生じるまれな腫瘍。インスリンの過剰分泌を引き起こし、空腹時低血糖を生じます。[3]
詐病性低血糖
「詐病」とは、病気と偽り何らかの利益を得ることです。
詐病性低血糖とは、ダイエット目的などで隠れてインスリン注射や経口糖尿病治療薬を使用することで起きる低血糖のことを指します。
まれではありますが、医療従事者・患者家族にみられます。[1]
インスリン自己免疫症候群
インスリン注射の使用歴がないにもかかわらず、重度の低血糖発作を起こすまれな疾患です。その理由として、以下の機序が考えられています。[1]
- インスリンに対する自己抗体が作られる。
- インスリン自己抗体がインスリンに結合し、インスリンの作用が失われる。
- 身体が血中にインスリンが少ないと判断し、インスリンが作られる。
- インスリンに結合していたインスリン自己抗体が離れ、血中に大量のインスリンが残る。
- 大量のインスリンにより、重度の低血糖が生じる。
原因は一部の薬や、特定の遺伝子によるものと考えられています。
膵外性腫瘍
肝癌、間葉系腫瘍(線維肉腫、横紋筋肉腫など)、消化器癌などの膵臓以外の腫瘍が原因で起こる低血糖。
腫瘍からの IGF-II、ブドウ糖消費の増大、肝障害による糖代謝の低下などが原因とされています。[1]
糖原病
糖の代謝に関係する酵素の先天的異常によって発症する疾患群を糖原病といい、障害を受けた酵素が発現する場所により肝型・筋型に分けられます。
肝型糖原病は肝機能障害、肝硬変、肝腫瘍などを引き起こし、そのうちの一つの症状として低血糖が生じます。[4]
アジソン病(副腎機能不全)
副腎機能の低下によって、副腎ホルモンの分泌が減る病気です。
副腎で作られるコルチコステロイド、ミネラルコルチコイドの分泌が減ることで、重度の脱水や血圧低下、感染に対する防御機能低下など様々な症状が現れます。
低血糖は、コルチコステロイドの分泌低下によるインスリンへの感受性増大が原因となり引き起こされるとされています。[5]
新生児の低血糖
新生児一過性低血糖症は、お腹の中では胎盤からブドウ糖の供給を受けていた新生児が、分娩後にブドウ糖の供給が途絶えることで起こる低血糖です。
低出生体重児や、ふたごの新生児、糖尿病の母親から生まれた新生児などにしばしば認められます。[1]
乳児・幼児の低血糖
6ヵ月~5歳の乳児期および幼児期にみられる低血糖症に、ケトン性低血糖症があります。
長時間の絶食によって低血糖とケトン尿がみられ、けいれんや嘔吐などの症状を示します。[1]
低血糖の診断
一般的に、血糖値が70㎎/dLを下回ると交感神経症状(動悸・ふるえ・めまいなど)が出現しますが、無自覚性低血糖では、血糖値が60〜70mg/dL未満でも自覚症状が現れません。
そのため、症状の有無にかかわらず、血糖値60〜70mg/dLでは低血糖と診断し、対応する必要があります。
判別基準として、Whippleの3徴といわれる3つの特徴を確認します。
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空腹時の低血糖発作
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血糖測定による低血糖の証明
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ブドウ糖投与による低血糖症状の改善
動悸・ふるえ・めまいなどの症状だけでは低血糖の診断とはならず、血糖測定による低血糖(60〜70mg/dL)の証明が必要です。
低血糖の症状|セルフチェック
自分で気づくことのできる症状を以下に示します。
次のような症状があれば低血糖を疑いましょう。[1]
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ふらつき、めまい
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強い空腹感
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無気力、だるさ
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脱力感
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生あくび
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いらだち
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手足のふるえ
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動悸
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目のかすみ
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頭痛
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集中力や計算力が落ちる
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もの忘れ
低血糖の症状|お年寄りや子供には周りからチェック
お年寄りや子どもでは自覚症状に気付きづらく、いきなり意識障害などの重篤な症状が現われることがあるため、周囲の人による観察がとても重要です。
さらに高齢者では、低血糖の症状が認知症と似ているために、症状が現れていても「認知症かな?」と勘違いされて見過ごされてしまう場合もあります。
特に注意して観察するようにしましょう。
周りから見て観察できる症状には以下のものがあります。[1]
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ぼんやりする、ボーっとする
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うとうとする
-
いつもと人が違うような変な行動をする
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わけのわからないことを言う
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ろれつが回っていない
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目の前が真っ暗になって倒れそうになる
-
意識がなくなる
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けいれんを起こす
糖尿病治療薬を使用していて、「あれ?いつもと何か違うな」と感じた場合は、低血糖の可能性を考えてみましょう。
低血糖の治療方法は?ガイドラインはある?
厚生労働省より「重篤副作用疾患別対応マニュアル 低血糖」が出されています。低血糖の症状をはじめ、原因や治療法などが詳しく解説されています。
低血糖治療の目標数値はどのくらい?
明確な治療目標として数値は設定されていませんが、血糖値60〜70mg/dLで低血糖と診断されるため、70mg/dL以上を目指すのがよいでしょう。
低血糖の治療法|救急対応
意識が保たれている場合には、10〜20 g のブドウ糖、砂糖をとるようにしましょう。
これらが手元になければ、ジュースや飴などの糖質を食べても良いです。
ただし、糖尿病治療薬のα-グルコシダーゼ阻害薬を服用中の場合は、必ずブドウ糖を摂取するようにしましょう。
“※α-グルコシダーゼ阻害薬は、多糖を分解する酵素を阻害し、血糖上昇をおだやかにする薬。
ブドウ糖以外の糖質を投与してもα-グルコシダーゼ阻害薬によって、分解が阻止され、吸収に時間がかかってしまう。
単糖類のブドウ糖であればα-グルコシダーゼ阻害薬の影響を受けず、すぐに吸収されるため、低血糖時はブドウ糖摂取が必要。”[1]
糖尿病治療薬を使用中の人は、万が一に備えて日頃からブドウ糖や飴、ジュースなどを持ち歩くようにしましょう。
低血糖の治療法|重症低血糖では昏睡も!治療は病院での対処が必要
意識がない、けいれん発作が起きているなどの重症な場合、口から糖質をとることが難しいでしょう。
そのままの状態で数時間経つと、脳に重大なダメージを与えたり、生命の危機に瀕したりすることがあります。
病院やクリニックなどの医療機関で、救急治療が必要です。
病院での治療は、50%グルコースの静注 20mL(20%グルコースならば 40mL)やグルカゴンの補充療法が行われます。[1]
低血糖の治療法|小児の低血糖治療
小児の場合は、10%ブドウ糖を 5mg/kg/分の速度で注入することで治療を開始し、正常な血糖値まで急速に回復するように注入速度を調節します。グルカゴン補充療法も有効です。[1]
低血糖の治療法|乳児や高齢者への看護のポイント
高齢者や乳幼児では症状を自覚せず、いきなり「ぼんやりする・ぼーっとする・わけのわからないことを言う」といった意識障害を起こすことがあります。
このような場合、すでに中枢神経症状が出ており、かなり危険な状態です。周りにいる人が吸収の早い糖分やブドウ糖を食べさせるようにしましょう。
糖尿病治療中などの人で、あらかじめ家族に対して低血糖時にグルカゴンの注射を打つように指示されている場合は、指示に従って注射してください。
症状が良くならない場合、意識障害があって糖分を口から摂ることができない場合には、すみやかに主治医へ連絡し、病院を受診しましょう。[1]
家族や周りの人が異変を感じたときに、「低血糖かも?」と気付くことで救われる命があります。観察のポイント、対処法について日頃から学んでおきましょう。
低血糖が遷延するときの治療は?
低血糖の症状は、適切な量の糖質をとれば、通常5分以内に消失します。
しかし、血糖値がいったん上昇したにも関わらず、 30 分ほどでふたたび低血糖が生じる場合があります。
これを遷延性低血糖と呼び、糖尿病治療薬のなかでも特にSU薬で起こりやすい副作用です。
SU薬を服用していたり、一度遷延性低血糖を経験した場合は、対策として糖質を摂取した後すぐに、さらに食事やスナックを摂取するようにしましょう。[1]
低血糖の治療薬|飲み薬と点滴、注射について解説
低血糖の治療に使う飲み薬(ブドウ糖)と点滴、注射について解説します。
低血糖の治療薬|飲み薬(ブドウ糖)
血糖値を回復させる飲み薬は現在のところありませんが、砂糖、ジュース、飴などの糖質をとることで対処できます。
αグルコシダーゼ阻害薬を服用中であれば、これらの食品では血糖値を回復させるのに時間がかかるため、ブドウ糖の摂取が必要です。常に携帯しておくとよいでしょう。
ブドウ糖は固形タイプ、粉末タイプ、ゼリータイプがあり、薬局や医療機関で受け取ることができます。
低血糖の治療薬|点滴・注射
点滴や注射は、低血糖の緊急対応、小児や高齢者で口から糖質をとることができない場合に使用される方法です。
医療機関では10〜50%ブドウ糖液が使用されるほか、筋肉注射のグルカゴン注も使用されます。
グルカゴン注は、家庭での投与が可能です。そのため、必要に応じて糖尿病患者の家族に対し、グルカゴン注の自己注射方法が指導されます。
低血糖の治療薬|点鼻薬(グルカゴン)
前述したグルカゴン注は、粉状の薬を溶解液に溶かす→注射器で吸う→筋肉注射する、という手順で使用します。
操作が煩雑なため、低血糖で倒れた人を目の前にして、速やかに使用できるか疑問が残るところです。[6]
このデメリットを解消するため、グルカゴンの点鼻薬であるバクスミーⓇという薬が2020年10月より販売開始となりました。
バクスミーⓇは鼻粘膜より吸収される製剤で、投与が簡便であるため、緊急時の処置として使用しやすいメリットがあります。
グルカゴンが反応しない低血糖に注意[7]
グルカゴンは、肝臓のグリコーゲンを分解することで血糖を上昇させます。
以下の状態では、グルカゴンによる血糖上昇効果は期待できないため注意しましょう。
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飢餓状態
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副腎機能低下症
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頻発する低血糖
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一部糖原病
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肝硬変
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アルコール性低血糖
これらが原因の低血糖では、必ずブドウ糖を投与しましょう。
低血糖治療|薬以外の対応が必要な場合
低血糖で糖尿病でない場合の対処法として、ブドウ糖・グルカゴン投与以外の対応が必要な場合について解説します。
副腎不全の低血糖治療にはブドウ糖+ステロイド
急性副腎不全を疑い、特にショックなどの循環不全を認める場合には直ちに初期治療が必要です。
低血糖にはブドウ糖投与が基本ですが、病態として副腎皮質からのステロイドが不足しているため、それを補うために十分量の糖質コルチコイドを投与します。
また、原発性副腎不全では鉱質コルチコイド不足により電解質バランスが崩れるため、補液で補正をはかります。[8]
反応性低血糖治療には食事療法
急激に血糖値が上昇し、インスリン分泌のタイミングがずれることで起こる反応性低血糖。
その治療は、急速な血糖上昇を起こさないための食事療法が基本です。
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主食を食べる前に食物繊維の多い野菜やおかずを食べる
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時間をかけて食事する
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色のついた主食(玄米やライ麦パンなど)を食べる
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1日1~2食のドカ食いをやめ、3食バランスのとれた食事をする
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糖質制限しすぎない
このようなことを心がけて食事をしてみてください。[2]
シックデイで低血糖に?糖尿病治療薬はどうする?
シックデイのときにも低血糖になることがあります。シックデイとはどんな状態なのか、シックデイ時の糖尿病治療薬の対処方法について解説します。
シックデイとは?
糖尿病の人が感染症にかかり、発熱・下痢・嘔吐などで食事ができず、体調が悪い日のことを「シックデイ」(Sick day)といいます。
感染症にかかると、ストレス反応で著しい高血糖やケトアシドーシスになることがあります。
逆に、食事がとれていない状態で普段通りの糖尿病治療薬を使うことで、低血糖になることも。
このように、シックデイでは血糖コントロールが普段より難しくなるため、特に注意が必要です。[9]
シックデイ時の糖尿病治療薬はどうする?低血糖に注意!
もととなる病気への対処をし、回復につとめることが基本です。安静、休息、消化のよい食事などをとるようにしましょう。
また、こまめに血糖値を測ることも、血糖コントロールの重症化を予防するのに役立ちます。
食事量が普段より減少している場合は、糖尿病治療薬の取り扱いに注意が必要です。
インスリン製剤を使っている方は、決して自己判断でインスリンを中断しないようにしましょう。飲み薬を使用している方は、薬の量の調整が必要な場合があります。
シックデイ時の糖尿病治療薬の取り扱いについて、次のような調整の仕方があるため、参考にしてください。
薬の種類 |
シックデイ時の対応 |
インスリン注射 |
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GLP1受容体作動薬 |
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インスリン+GLP1受容体作動薬の配合剤 |
持効型インスリンへの切り替えを検討 |
インスリン分泌促進薬 (SU薬、速効型インスリン分泌薬) |
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α-グルコシダーゼ阻害薬 |
服用中止 |
ビグアナイド薬 |
服用中止 |
チアゾリジン薬 |
食事量が1/2以下のときは服用中止 |
DPP4阻害薬 |
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SGLT2阻害薬 |
服用中止 |
(参考:糖尿病とシックデイの対処法をよく知ろう[9])
個人によって薬の調節の仕方はさまざまですので、あらかじめ主治医と「シックデイの時はどのように対応するか」という“シックデイルール”を決めておくと安心です。
もし、シックデイルールを決めておらず、病気になり悩んだときは、電話などで主治医へ連絡・相談してください。
相談の時には、「いつから、どんな症状、食事はどのくらいとれているか、血糖値はどのくらいか」などの情報を伝えましょう。
低血糖を予防する食事のとりかた
低血糖を引き起こす主な原因は、食事量不足や食事時間の遅れなどです。
低血糖を予防するための食事の工夫について紹介します。
-
食事の量はなるべく毎回同じくらいの量・時刻にとる
-
糖尿病治療薬を使用している場合は、著しい糖質制限は避ける
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食事間隔があいたり、運動する前にはクッキーなどの少量の糖質をとるようにする
上記のことを心がけて、低血糖を未然に防ぎましょう。
自律神経失調症やパニック障害は低血糖を治療すると治る?
自律神経失調症やパニック障害などの疾患と低血糖には共通点があることをご存知でしょうか?
自律神経失調症とは、ストレスを原因として自律神経が正常に働かないことによって起こるさまざまな症状の総称です。
パニック障害は、極めて強い苦痛、不安、恐怖などが突然現れて短時間で治まる「パニック発作」がくり返し生じることで、将来の発作に対する過度の不安が生じる状態です。[11] [12]
低血糖では動悸・めまい・不安感などが起こります。
低血糖のこれらの症状と、自律神経失調症やパニック障害で起こる症状には、同じ自律神経が関与しているため、同じ症状が現れるのです。
動悸・めまい・不安感を訴える自律神経失調症やパニック障害の人は、一度血糖測定をしたり、ブドウ糖をとって反応をみると良いでしょう。
症状が低血糖によるものであれば、血糖コントロールのために良質なタンパク質や脂質を中心とした食事内容に改善し、必要な栄養素をとることで症状が改善することがあります。[13]
犬や猫も低血糖を起こす?治療法は?
犬や猫も低血糖になることをご存知でしょうか?
原因は人間と同じように、糖尿病を患い、インスリン治療をしている場合に起こりやすいです。そのほかの原因としてインスリノーマ、腫瘍、エンドトキシンショックがあります。
猫が低血糖を起こすことは比較的まれで、犬の低血糖は、年齢や犬種により異なります。症状は心拍数の増加、瞳孔散大、脱力、麻痺、運動失調、振戦、発作、嗜眠など。
治療法も人間と同じように、ブドウ糖投与が有効です。動物病院に到着していなければ、ブドウ糖もしくはハチミツなどを口腔粘膜へすりこみ、すぐ動物病院へ連れていきましょう。
病院内ではすぐに血糖値の確認を行い、静脈からブドウ糖を投与します。[14]
Q&A
低血糖はどうやって治すの?
軽症の場合、ジュースや甘いものなどの糖質を食べることで回復します。
ただし、糖尿病治療薬でαグルコシダーゼ阻害薬を飲んでいる人はブドウ糖を携帯し、低血糖が起きた時はブドウ糖をとるようにしましょう。
重症で口から糖分を摂取できない状態では、ブドウ糖液の注射が必要となるため、すぐに医療機関を受診します。
グルカゴンの自己注射や点鼻薬などの製剤は、医療機関外での他者による投与が可能です。
症状レベル |
対処法 |
軽症 |
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重症 |
医療機関でのブドウ糖注射投与が必要。 |
他者による投与 |
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低血糖になったら病院に行くべき?低血糖で入院治療が必要な目安は?
低血糖になった場合、病院へ行くべきか悩むこともあるでしょう。病院での入院や治療が必要な目安について説明します。
自分で低血糖の初期症状や対応を理解し、低血糖が起きた場合に口から糖質をとることができ、症状が改善すれば病院へ行く必要はありません。
入院治療が必要な目安としては、意識低下・ろれつが回らない・けいれんなどの意識障害が現れている場合です。すぐに医療機関での処置を受けるようにしましょう。
低血糖になりやすい人の特徴は?
低血糖になりやすい人の特徴を以下に示します。
- 糖尿病治療薬を使用している人
- 腎機能、肝機能、すい臓機能の悪い人
- 高齢者
こちらの記事に詳しく解説がありますので、気になる方はこちらもご覧ください。
低血糖の治療や対処法は?なりやすい人の特徴、対策についても解説!
低血糖の時は何を食べればいい?チョコは効果がありますか?
吸収の早いブドウ糖または、ブドウ糖を含む飲料(果物ジュースなど)を100~150mlとるようにしましょう。
チョコレートは乳脂肪分が多く、吸収に時間がかかるため早急に血糖値を上げたい場合は不向きとされています。
しかし、低血糖が起こった時に手元にブドウ糖がない場合も十分に考えられます。その場合は、その場にあるチョコレートでも飴でも、甘いものを食べさせるようにしましょう。
また、周囲の人へ糖尿病治療をしていることや低血糖の症状、低血糖時の対処法などを普段から伝えておくことも万一の時の備えとなります。
万が一の場合でも周りの人に対処してもらいやすくするため、糖尿病IDカードを持ち歩くようにしましょう。[15]
夕方になると低血糖になります。対処法はありますか?
夕方になると、血糖をあげるコルチゾールというホルモンの分泌が低下することや、昼食から時間が空くことが原因で低血糖になりやすくなります。
対処法は、昼食から夕食までの間に間食をすること。血糖の下がり過ぎを防ぎ、夕方の血糖低下を予防することができます。
女性は低血糖になりやすい?
女性は男性に比べ、低血糖になりやすいといえます。
神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科の田中らの研究では、約70万人の非糖尿病者を対象に、低血糖になるリスク因子を解析しています。
研究の結果、リスク因子のひとつとして、性別では男性に比べ、女性が有意に低血糖を起こしやすいことが示されました。[16]
痩せすぎは低血糖になりやすい?
痩せすぎは低血糖になりやすいという研究結果が出ています。
上記と同じ研究で、そのほかのリスク因子としてBMIによる低血糖リスクも解析しています。
その結果、BMI 16.9kg/m2以下の人で低血糖リスクは4倍にもなることが示されました。[16]
まとめ
低血糖の原因や症状、治療法などについて紹介しました。
低血糖の主な原因は糖尿病治療薬の副作用によるものです。
その中でも特に、以下の3つの薬が低血糖を引き起こす頻度が高いとされています。
- インスリン製剤
- SU薬
- 速効型インスリン分泌薬
薬以外の病気が原因となる低血糖には以下のものがありました。
- 反応性低血糖
- インスリノーマ
- 詐病性低血糖
- インスリン自己免疫症候群
- 膵外性腫瘍
- 糖原病
- アジソン病(副腎機能不全)
- 新生児の低血糖
- 乳児・幼児の低血糖
原因によっては、ブドウ糖投与以外の治療が必要となるため、薬による低血糖との判別が必要です。
低血糖の症状は、自覚症状として分かるものはセルフチェックが可能です。
- ふらつき、めまい
- 空腹感
- 無気力、だるさ
- 脱力感
- 生あくび
- いらだち
- 手足のふるえ
- 動悸
- 目のかすみ、複視
- 頭痛
- 集中力や計算力の減退
- 健忘(物忘れ)
このような症状が現れたら低血糖を疑い、対処しましょう。
また、お年寄りや子どもなどは自分で症状を訴えるのが難しかったり、症状に気づかない場合があります。
- ぼんやりする、ボーっとする
- うとうとする
- いつもと人が違うような異常な行動をする
- わけのわからないことを言う
- ろれつが回らない
- 目の前が真っ暗になって倒れそうになる
- 意識がなくなる
- けいれんを起こす
このような症状が現れたら、すぐに病院へ連絡し、治療を受けてください。
低血糖の治療は①自分でできる対処法、②病院での治療法、③家族や周囲の人ができる対処法があります。
①自分でできる対処法は軽症の場合に効果があります。
10〜20 g のブドウ糖、砂糖、ジュース、飴などの糖質を食べるようにしましょう。
ただし、糖尿病治療薬のα-グ ルコシダーゼ阻害薬を服用中の場合は、必ずブドウ糖をとるようにしてください。
②病院での治療が必要となるのは、意識障害などで重症の場合です。50%グルコースの静注 20mL(20%グルコースならば 40mL)や、グルカゴンの補充療法が行われます。
③家族や周囲の人ができる対処法は、グルカゴンの自己注射や、近年販売開始となったグルカゴン点鼻薬(バクスミーⓇ)です。
点鼻薬では、注射薬の「溶かして注射する」といった手間がないため、より簡便に投与することができます。
症状レベル |
対処法 |
軽症 |
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重症 |
医療機関でのブドウ糖注射投与が必要。 |
他者による投与 |
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低血糖は、糖尿病治療を受けている患者さんで特に起こりやすい症状です。しかし、自分や周りの人の助けによって対処できる症状でもあります。
低血糖についての正しい知識を身につけ、いざという時に慌てず対処できるようにしましょう。
参考文献
[3]インスリノーマ - 01. 消化管疾患 - MSDマニュアル プロフェッショナル版
[4] 肝型糖原病(指定難病257)
[5] アジソン病-12.ホルモンと代謝の病気-MSDマニュアル プロフェッショナル版
[10]低血糖が起きた!そのときは | 患者さんのための糖尿病ガイド(dminfo.jp)
[12]パニック発作とパニック症 - 10. 心の健康問題 - MSDマニュアル家庭版
[13]自律神経失調症 - オーソモレキュラー栄養医学研究所
[14]低血糖になったときに考えること
[15[「低血糖」とは?