低血糖の症状チェック「はひふへほ」とは?
日本糖尿病協会では、代表的な低血糖症状の頭文字をとった「はひふへほ」を提唱しています。[1]
低血糖症状のすべてを把握しておくことは難しいかもしれませんが、以下に示す「はひふへほ」を用いることで覚えやすくなるのではないでしょうか。
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は:腹が減る
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ひ:冷や汗
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ふ:震え
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へ:変にドキドキ
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ほ:放置は昏睡
初期症状の「は:腹が減る」から始まり、下へいくに従って症状の程度が重くなっています。
最低限知っておくべき低血糖の症状として、頭に入れておきましょう。
低血糖の症状について段階別に解説
一般的に低血糖は、血糖値が70mg/dL未満のときの状態をいいます。[2]
低血糖と疑われる症状があるときはもちろん、症状がなくても血糖値が70mg/dLを下回る場合は低血糖と診断されます。
また血糖値が正常であるのにもかかわらず、低血糖症状が生じることも珍しくありません。
どのケースにしても、低血糖になるとどのような症状がおこる可能性があるのか把握しておくことで、適切な対処ができるでしょう。
ここでは、血糖値の段階ごとに起こりうる低血糖症状について解説します。[2]
分類するために表示している血糖値はあくまで目安です。症状の内容をしっかりチェックしてください。
血糖値55mg/dL程度でおこる低血糖症状|冷や汗、空腹、手足の震え、息切れ、嘔吐
低血糖の初期段階では、交感神経のはたらきによる症状があらわれます。
血糖値を上げるために脳内でアドレナリンが分泌されるためです。
症状を以下に示します。
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発汗
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振戦
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動悸
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吐き気
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不安感
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熱感
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空腹感
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頭痛
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倦怠感
これらの症状は、重度の症状が生じる前の警告となります。
初期段階で適切な対処をおこなうことで、重症化を防ぐことが可能です。
症状のサインを見逃さないようにしましょう。
血糖値50mg/dL程度でおこる低血糖症状|眠気、めまい、意識の低下、不安、うつ
血糖値が50mg/dL程度では、脳の機能が低下しはじめます。
この段階で生じるのは、脳内ブドウ糖の欠乏症状や精神症状です。
症状を以下に示します。
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眠気
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脱力
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めまい
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疲労感
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集中力低下
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霧視
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意識の低下
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不安感
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抑うつ
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攻撃的変化
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不機嫌
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周囲との不調和
これらの症状を見逃すことは、重篤な症状につながる可能性をきわめて高くします。
起こりうる症状を日頃から頭に入れておきましょう。
血糖値30mg/dL以下でおこる低血糖症状|けいれん、意識消失、昏睡
血糖値が30mg/dL以下になるとさらに脳の機能低下が進み、以下のような重篤な症状を引き起こします。
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けいれん
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意識消失
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一過性片麻痺
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昏睡
放置すると死亡するケースもあり、この段階に至る前の対処がとても大切です。
取り返しのつかない事態にならないために、できるだけ早い段階で低血糖症状のサインに気づけるよう意識しましょう。
無自覚低血糖について
低血糖は早い段階で症状を自覚できれば、適切な対処が可能です。
しかし、低血糖が起きていることに気づかないまま重篤化してしまうケースもあります。
ここでは、自覚症状がないまま進行する低血糖について解説します。
無自覚低血糖とは
初期段階の自覚症状がないまま、意識消失などの重篤な低血糖症状を引き起こすことを無自覚低血糖といいます。
無自覚低血糖では、通常のケースで生じる自覚症状がないために適切な対処ができません。
放置することでさらに血糖値が低下し、重篤化するリスクが高まることが大きな問題点といえるでしょう。
とくに高齢者や自律神経に障害がある人は初期段階の症状を自覚しにくく、無自覚低血糖のリスクが高くなります。
また低血糖を繰り返すことで体が慣れてしまい、症状を感じづらくなり発症するケースもあります。
無自覚低血糖は、前兆なくいきなり昏睡状態に至ることもあるため注意が必要です。
睡眠中の低血糖にも注意
夜間の睡眠中に、低血糖状態となるケースもあります。
睡眠中のため初期段階の交感神経症状があらわれず、無意識に低血糖が進行してしまうのです。
悪夢や寝汗、起床時に頭痛や血糖値の上昇がある場合は、夜間低血糖になっている可能性があります。
低血糖の原因
低血糖は、糖尿病を治療する薬が原因で起こることがほとんどです。
糖尿病を治療中の人は、低血糖になる可能性を常に頭においておく必要があるでしょう。
また数としては多くないものの、糖尿病以外が原因で低血糖を引き起こすこともあります。
糖尿病の治療中である
糖尿病を治療中の人は、血糖値を下げる薬を使用するため低血糖を起こしやすくなります。
とくにインスリン注射を使用するケースでは、ほとんどの人に低血糖の経験があるといわれています。[3]
また頻度はインスリン注射ほどではないものの、糖尿病の飲み薬によって低血糖が起こることも少なくありません。
飲み薬の種類では、スルホニル尿素薬や速効型インスリン分泌促進薬が低血糖を起こしやすいでしょう。
糖尿病の薬を使用している人は、常に低血糖の危険性があることを理解しておいてください。
糖尿病治療以外で低血糖になるケースとは
糖尿病でない人が低血糖を起こすケースには、以下のような原因があります。
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糖尿病以外の薬(一部の抗不整脈薬やキノロン系の抗菌薬など)
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膵臓のインスリン産生細胞の腫瘍
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ホルモン分泌が低下する病気
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肝臓の病気
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糖代謝に異常が生じる病気
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胃切除の術後
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極度の食事制限
頻度としては多くありませんが、低血糖になる可能性があることを知っておくとよいでしょう。
低血糖が起きやすいタイミング
低血糖が起きやすいタイミングをご紹介します。[4]
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炭水化物の摂取量が少ないとき
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食事時間が遅れたとき
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運動量が多いとき
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空腹で運動したとき
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飲み薬やインスリンの量が増えたとき
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お酒を飲んだとき
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入浴中、入浴後
糖尿病の治療中の人はとくに、低血糖が起きやすいタイミングに注意してください。
低血糖の対処法
低血糖症状が進行して重篤な状態にならないためには、早い段階で症状に気づき適切に対応する必要があります。
ここでは、低血糖の対処法について解説します。
症状が出てからでは自分で対処するのが難しい場合もあるため、家族や周囲の人にも伝えておきましょう。
ブドウ糖を摂取する
低血糖の基本的な治し方は、ブドウ糖を摂取することです。
ブドウ糖は砂糖(ショ糖)やほかの糖類に比べて吸収が早いため、低血糖の対処に適しています。
5〜20gのブドウ糖、またはブドウ糖を含む清涼飲料水や食べ物を摂取しましょう。[3]
低血糖対策に即効性が期待できる食べ物としては、ブドウ糖を多く含むラムネがおすすめです。
適切な対処をすれば、通常5分以内に低血糖症状は治ります。
ブドウ糖はスーパーやドラッグストアで購入できます。
糖尿病の薬を使用している人は、ブドウ糖を携帯しておくと安心です。
またα-グルコシダーゼ阻害薬というタイプの糖尿病治療薬は、糖質がブドウ糖へ分解されるのを遅らせることで効果を発揮します。
そのため低血糖が起きた場合に砂糖を摂取しても、薬の作用によって糖の吸収が遅くなってしまうのです。
α-グルコシダーゼ阻害薬を服用して低血糖になった場合は砂糖ではなく、とくにブドウ糖の摂取が求められます。
ブドウ糖がないときはどうすればよいか
ブドウ糖がないときは、砂糖や砂糖を含む飲食物で対処しましょう。
ただし砂糖は体内でブドウ糖に分解されるため、ブドウ糖そのものを摂取する場合に比べると吸収は遅くなります。
チョコやキャンディなど砂糖を含むお菓子、パンやごはんなどの炭水化物は低血糖の緊急時に向いているとはいえません。
しかし即効性はなくとも、低血糖のときは何かしら食べ物を摂取することが大切です。
ブドウ糖がないからといって、何も食べないのは絶対に避けてください。
Q&A
低血糖の初期症状は?
低血糖の初期症状を以下に示します。
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発汗
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振戦
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動悸
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吐き気
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不安感
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熱感
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空腹感
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頭痛
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倦怠感
これらの症状は、血糖値を上げるために脳内でアドレナリンが分泌されることで生じます。
低血糖は、早い段階で適切な処置をすれば重症化を防げます。
症状のサインを見逃さないようにしましょう。
低血糖になりやすい人の特徴は?
低血糖になりやすい人の特徴を以下に示します。
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糖尿病の治療中の人
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過度な食事制限をしている人
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運動量が多い人
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高齢者
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乳幼児
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腎機能が低下している人
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肝機能が低下している人
糖尿病でない人は過度に心配する必要はありませんが、もしものときは異変に気づけるようにしておきましょう。
痩せすぎの女性は低血糖になりやすい?
糖尿病以外の人で低血糖を起こす条件を調べた調査では「女性」「低体重」がリスク因子としてあげられています。[5]
したがって、痩せすぎの女性は低血糖になりやすい可能性があるでしょう。
また女性はダイエットをおこなう人が多く、過度な糖質制限が低血糖の原因となるケースもあります。
ただし糖尿病以外の人が低血糖を起こすことは稀であるため、心配しすぎることはありません。
低血糖が起こる原因は何ですか?
低血糖が起こる原因のほとんどは、糖尿病の治療薬によるものです。
薬の増量や食生活リズムの乱れ、長時間の運動などで低血糖を起こしやすくなります。
糖尿病の薬以外で低血糖が起こる原因には、糖尿病以外の薬(一部の抗不整脈薬やキノロン系の抗菌薬など)や膵臓・肝臓の病気、ホルモン分泌異常などがあります。
低血糖の症状を改善するにはどうしたらいいですか?
低血糖の症状に気づいたら、ブドウ糖を摂取することが大切です。
ブドウ糖が手元にないときは、砂糖を含むお菓子や炭水化物、なんでもよいので糖分を摂取しましょう。
また普段から規則的な生活や適切な食事量、運動する時間帯に気をつけることで低血糖の予防対策ができます。
夕方に低血糖が起こりやすいのはなぜ?
低血糖は夕方なぜ起こりやすいのかについて、以下の理由が考えられます。
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血糖値を上げるホルモン「コルチゾール」が夕方に低下しやすい[6]
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昼食から時間がたっている
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日中の運動量が多い
「夕方に低血糖になる」という人は、食事量や運動量を見直してみましょう。
まとめ
低血糖は、適切な対処をせずに重症化すると昏睡や死に至るケースもあります。
しかし早い段階で症状に気づき対処することで、重症化を防ぐことが可能です。
低血糖の初期症状である冷や汗や空腹、動悸などを見逃さないようにしましょう。
対処法としては、ブドウ糖の摂取がもっとも有効です。
糖尿病の治療中の人は低血糖を起こしやすいため、ブドウ糖を携帯しておいてください。
低血糖の症状と対処法を頭に入れておくことで重症化を防ぎ、健康を守ることができるでしょう。
参考文献