エコノミー症候群とは?
まずはエコノミー症候群がどういった状態であるのかを解説します。
エコノミー症候群とは食事や水分を十分に取らない状態で、車などの狭い座席に長時間座っていて足を動かさない状態であると発症します。
この状態を継続していると血行不良が起こり血液が固まりやすくなり、その結果、血栓と呼ばれる血の固まりが血管の中を流れ、肺の小さな血管に詰まってしまい、肺塞栓などを誘発する恐れがあるのです。[1]
エコノミー症候群の原因
エコノミー症候群の原因は1つではなく、さまざまな原因が組み合わさって起こります。
まずは航空機内であることです。航空機内は乾燥した空間であり、なおかつ空を飛んでいるということから気圧が低く、体内の水分が蒸散しやすい環境です。
乾燥しなおかつ水分が蒸発しやすい状態なので血液の粘度が上昇しやすくなっています。飛行機だけでなく車であってもこの条件が重なればエコノミー症候群となりやすくなります。[2]
次に血管内の水分不足です。
水分の摂取不足、アルコール等利尿作用のある飲料の摂取などにより血管内の水分量が少なくなると、エコノミー症候群を発症しやすくなります。
これらに加えて長時間座った状態で下肢が圧迫され続けると血流が悪くなり、血栓ができやすくなります。
このようにエコノミークラス症候群にはさまざまな原因があるのです。
近年では車や飛行機に乗っていなくても、在宅勤務によって長時間椅子に座っていることが増えた方、糖尿病などの基礎疾患を持っている方が、映画や観劇などで長時間椅子に座っていることでも起こりやすくなっています。
エコノミー症候群で死亡することもある
エコノミー症候群で死亡するリスクがあるのかが気になる方もいるかもしれませんが、エコノミー症候群でも死亡するリスクは十分にあります。
エコノミー症候群では足の静脈の中で血の塊である血栓ができ、これが静脈の壁からはがれ、血液の流れで運ばれていきます。
これが肺動脈に詰まってしまえば、肺動脈血栓塞栓症となるため、死亡するリスクもあるのです。
発症者数は年間10万人あたりに約3人程度と報告されていますが、エコノミー症候群による志望者は年々増加傾向であるといわれているため、注意が必要と言えるでしょう。[3]
エコノミー症候群の症状をチェック
エコノミー症候群の初期症状は次の5つの症状からチェックできます。
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太ももからひざ下の脚の皮膚が赤くなる
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腫れる
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痛みがでる
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ふくらはぎがつっぱる
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足がだるいと感じる
これらのうちにエコノミー症候群であるとわかり適切なケアができれば、肺動脈へ血栓が飛ぶことを防げるかもしれません。
一方で、この状態でエコノミー症候群であると気付けず、できてしまった血栓が肺の動脈を詰まらせてしまうと、次のような症状が起こります。
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胸痛
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呼吸困難
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失神
上記の症状が出ると命に関係してくるため、早めに対処することが必要となるでしょう。[4][5]
エコノミー症候群の予防法
エコノミー症候群は予防ができます。
ほとんどが手軽にできる予防方法であるため、エコノミー症候群の予防法を理解して、実践してみましょう。
エコノミー症候群の予防法は次の通りです。
軽い体操やストレッチ運動を行う
エコノミー症候群を防ぐためには血液がうっ滞しないように足を動かして血液の流れを良くする必要があります。
理想は、時間を決めて立ち歩くのが良いですが、乗り物においては座席が通路側でない限りなかなか難しいかもしれません。
在宅勤務でも仕事中に立ち歩くのは難しい方もいるかもしれません。
そのため、座席に座った状態で軽い体操やストレッチ運動を行いましょう。ストレッチ方法は次のようになります。
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足の指をグー、パーする
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足を上下につま先立ちする
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つま先を引き上げる
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ひざを両手で抱え、足の力を抜いて足首を回す
この運動を2~3時間ごとにやることがおすすめです。[4][5]
足をマッサージする
エコノミー症候群はふくらはぎの筋肉を伸び縮みさせることがポイントです。ふくらはぎの筋肉が伸び縮みすることでポンプ作用が働き、血行が良くなります。
上記の運動も足のふくらはぎの伸び縮みを促す運動となるのです。
そのため、上記の運動と加えて足、特にふくらはぎをマッサージするのがポイントです。もんだり、さすったりすることで、ふくらはぎの筋肉に作用し、血行が良くなります。[4][5]
水分を摂る
血液の粘度を高めないために水分を摂ることが大切です。
そのため積極的に水分を摂るようにしましょう。
大塚製薬がおこなったエコノミー症候群と水分補給の関係の研究によると、ミネラルウオーターよりも、イオン飲料水の方が約20%水分が体内に保たれる割合が高いことがわかりました。[6]
そのため、可能であればエコノミー症候群を予防するために、イオン飲料水を積極的に採ることがおすすめです。
アルコールを控える
アルコールは利尿作用があるため、血管内を脱水傾向にさせてしまい、血液の粘度を高めるため、エコノミー症候群を予防するためには摂取を控えたい飲み物です。[2]
アルコールやカフェインはエコノミー症候群予防の観点から摂取を控えましょう。
ゆったりとした服装で過ごす
飛行機に乗るときには、ゆったりとした服装で過ごすことがポイントです。[5]
スキニージーンズなど窮屈な服装は足の動きを妨げてしまうため、前述した脚の運動が難しくなります。
また、下半身が締め付けられた状態で長時間座っているのも、血流のうっ滞へとつながります。
女性であればスカートやフレアパンツなど、男性であればスウェットやジョガーパンツなどゆったりとした服装を心がけましょう。
移動中睡眠をとるなら足を上げる
移動が長時間になるなどの理由でフライト中に睡眠をとる必要がある方もいるでしょう。
睡眠中は特に意識して足を動かせなくなるので、エコノミー症候群となるリスクが高まります。[1]
移動中に睡眠をとる場合には、足を上げることで血液のうっ滞を防げます。
狭い機内で足をしっかり上げることは難しいかもしれませんが、足を挙げて眠れる状況を作れるように工夫しましょう。
市販の予防グッズを使う
エコノミー症候群の予防のためにさまざまな市販のグッズが活用できるため、積極的に使っていきましょう。
まず、おすすめなのが弾性ストッキングです。
弾性ストッキングとは少しきつめに作られたストッキングで、圧をかけてくれることで足の静脈の血流を改善し、血管の中で血が固まることを防いでくれます。[5]
医療現場でも手術のときなど長時間足を動かさないタイミングで使われており、実際に、被災者が車中泊をするときにもエコノミー症候群の予防グッズとして推奨されています。[7]
次におすすめなのはフットピローと呼ばれる足元に置くクッションです。足元に置くことで足の高さを上げられます。
足元に置くだけであり、近年では空気ポンプで空気を入れて使えるものもあり、荷物とスペースを最小限に利用できます。
一部航空会社ではエコノミーに常備してありますが、日本では優良オプションとなるため、市販して準備しておくと良いでしょう。[8]
エコノミー症候群を予防するための薬はあるの?
残念ながら、エコノミー症候群を予防するための市販薬はありません。
また、持病などがない方がエコノミー症候群を予防するための薬を医療機関から処方してもらうのもむずかしいといえるでしょう。[9]
ただし、後述する血栓症のリスクが高い方においては、予防的に薬による抗凝固療法を使えるケースもあります。
抗凝固法とは、血液が固まりにくくなる薬を使い、血液を固めないようにする方法です。
血液を固まりにくくしてエコノミー症候群を防げる一方で、脳出血など重篤な出血につながるリスクもあるため、必ず医師の指示の下での治療が必要です。[10]
エコノミー症候群の予防が特に必要な人
エコノミー症候群になるリスクが高く、エコノミー症候群の予防が特に必要なのは次に該当する人です。
肥満
肥満の方は、内臓脂肪の蓄積によって脂肪細胞から血栓を起こすPAI-1という物質が放出されることから、一般の生活をしていても血栓ができやすいといわれています。[11]
さらに、エコノミー症候群による血栓塞栓症の危険性は、健康な人では4時間の移動中に6000分の1である一方、肥満の場合はこれ以上であるとされており、肥満の人はエコノミー症候群のリスクが高くなるのです。[12]
ピルを服用中の方や妊娠中の方
妊娠中あるいはピルを服用しているとエストロゲンが多く分泌されます。
このエストロゲンは肝臓において血液凝固因子合成を促進させる作用を持っているため、一般の方よりも、血栓ができやすくなるといわれているのです。
特に妊娠中はお腹が大きいため、このお腹によって下肢の静脈が圧迫されて血流が滞りやすくなります。
エストロゲンの作用とあわせてさらにエコノミー症候群のリスクが高まるため注意が必要です。[13][14]
高齢者
高齢者は、加齢に伴い感覚器官が衰え、喉の渇きを感じにくくなっていることもあり、積極的に水分を摂る方が少ない傾向にあります。
くわえて、加齢によって新機能が低下しているケースも多く、心疾患により不整脈が起こった結果、心臓の働きが悪くなります。
そうすると、血流が悪くなるので、心臓内の血液が固まって血栓ができやすくなる傾向にあるのです。[15]
特に高齢者は持病を持っているケースが多く、持病や治療の薬の内容によって血液が固まりやすい傾向にあるといえるでしょう。
生活習慣病の人
生活習慣病(糖尿病、高血圧、高脂血症等)がある方はエコノミークラス症候群になりやすいといわれています。[16]
これらの病気は血管壁にダメージを与えやすいとされており、血管壁にダメージがあると血栓ができやすくなります。
このことから生活習慣病がある方はエコノミークラス症候群になりやすいと考えられているのです。[5][17]
足を怪我してギプス固定している人
ギプス固定をしていると足の動きが阻害されてしまうため、血栓ができやすいとされています。
固定部位やケガの状況によっても異なりますが、全く足を動かさないとなると血栓ができてしまうため、足首が出ている場合には足首を動かす、すべてギプスでおおわれているならば、足に力を入れたり抜いたりするなどして、少しでも足の筋肉を動かすようにすることで、血栓のリスクが軽減できるといわれています。[18]
Q&A
ここでは改めて、よくある質問をまとめました。
Qエコノミークラス症候群を薬で予防したい
エコノミークラス症候群の予防は市販薬ではできません。
抗凝固薬といって、血液をサラサラにする薬をリスクのある人に予防投与するケースはありますが、脳出血といった重篤な出血病変につながるリスクもあるため、医師の指示が必要です。
Q エコノミークラス症候群予防のおすすめグッズは?
エコノミークラス症候群の予防グッズとしておすすめされているのは弾性ストッキングです。
医療現場でも手術の際に活用されており、エコノミークラス症候群のリスクを下げられるでしょう。
弾性ストッキングは自分の足のサイズに合っていなければ確かな効果は発揮できません。お店で相談しながら購入する、もしくはサイズを念入りにチェックしましょう。
心臓から遠い部分はきつめに、近い部分はゆるめに締めるものですと、確実な効果が期待できます。[5]
Q エコノミークラス症候群になっているかもしれない。何科を受診すればいい?
エコノミークラス症候群かもしれないと思う症状が出ている場合には循環器内科を受診すると、必要な治療が受けられます。
もしも、内科などかかりつけがあれば一度そこに相談してみても良いでしょう。
妊婦でエコノミークラス症候群となっている可能性がある場合には一度かかりつけの産科に連絡して指示を仰ぐという方法もあります。
まとめ
エコノミークラス症候群は突然死に至る可能性もある非常に危険な状態です。
エコノミー症候群には5つの症状があり、この症状が出ているうちに適切なケアができれば命の危険へ直結することは少なくなります。
しかし、この症状に気づかないままでいれば、血栓が肺の血管をふさいでしまい、死に至る危険性を高めてしまうのです。
そのため、エコノミークラス症候群になりやすい人はもちろん、それ以外の方も積極的に予防をすることが必要といえるでしょう。
予防の薬など即効性のあるものはないのでこまめなストレッチや足の運動、積極的な飲水など気が付いたときに予防のためのケアを行い、継続することが大切です。
予防をしていてもエコノミークラス症候群と思わしき症状が出た場合にはなるべく早めに医療機関を受診して治療を受けましょう。
参考資料
1:厚生労働省|エコノミークラス症候群の予防のために
2:大塚製薬|旅行者血栓症(エコノミークラス症候群)の原因と対策
3:済生会|肺塞栓症(エコノミークラス症候群)(はいそくせんしょう)とは
4:埼玉県国民健康保険団体連合会|あなたは大丈夫?エコノミークラス症候群
5:一般社団法人日本血栓止血学会|血栓症ガイドブック
6:大塚製薬|検証!水VSイオン飲料どちらが効果的?
7:日本静脈学会|弾性ストッキングの着用をすすめられた方へ
8:ニュージーランド航空|エコノミー「スカイカウチ」
9:九州メディカルサービス株式会社|気をつけよう!エコノミークラス症候群
10:宮崎大学|抗凝固薬のリスクを検証し、有効性を再確認
11:一般社団法人日本肥満症予防協会|5.肥満と脳梗塞
12:糖尿病ネットワーク|4時間以上座ったままだと「エコノミークラス症候群」の危険が2倍に
13:鹿児島市医師会|手術時に休薬が必要な女性ホルモン製剤
14:愛媛県|マイナートラブル
15:日本医療・健康情報研究所|血栓症を防ぐ7つの方法 簡単な対策で血栓リスクが4割低下
16:厚生労働省|深部静脈血栓症/肺塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)について
17:航空医学研究センター|エコノミークラス症候群
18:公益社団法人日本整形外科学会|術後肺塞栓症・深部静脈血栓症