2型糖尿病の治療ガイドラインは?血糖値がいくつになったら薬を服用するの?
糖尿病の病型や年齢、合併症の程度などにより、治療方針は異なります。
糖尿病診療ガイドラインによると、インスリン非依存状態で2型糖尿病と診断された場合、一般的に以下の方針です。
- 随時血糖値が250〜300mg/dL程度かそれ以上
食事運動療法に加えて、薬物治療が開始となります。 - 随時血糖値が250〜300mg/dL以下
まず十分な食事運動療法を2〜3ヶ月継続して行い、改善がみられなければ、薬物治療を追加して治療を進めます。
多くの1型糖尿病に当てはまるインスリン依存状態や、妊娠高血糖、大きな手術の前後には、インスリン製剤で治療が行われます。
糖尿病治療薬の飲み薬の種類やそれぞれの特徴・副作用について徹底解説!
2型糖尿病の治療に用いられる糖尿病の飲み薬(以下、経口血糖降下薬と表記)は、さまざまな種類があります。
ここでは、「インスリンの働きを改善する薬」「インスリンの分泌を促進する薬」「糖の吸収や排泄を調整する薬」と、薬の働き方のグループで3つに分け、一覧で紹介します。
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インスリンの働きを改善する薬
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インスリンの分泌を促進する薬
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糖の吸収や排泄を調整する薬
参考
糖尿病診療ガイドライン2019
http://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4
インスリンの働きを改善する薬
「インスリン抵抗性」の状態を改善する薬です。
インスリンの分泌自体は十分にもかかわらず、体内でのインスリンの感受性が低下している状態を改善します。
3種類の作用機序があるので、順に紹介します。
ビグアナイド薬
単独では低血糖を起こしにくく、体重も増加しにくいとされています。
造影剤を使った検査をする際は、服用を中止します。
作用 |
肝臓からのブドウ糖の放出を抑制 筋肉をはじめとした末梢組織でのインスリン感受性を改善 |
主な副作用 |
下痢、吐き気、便秘などの消化器症状 重篤な乳酸アシドーシス |
この薬を使用できない人 (禁忌) |
重度の肝機能障害、腎機能障害、肺や心血管障害の人 脱水のおそれのある人 過度のアルコールを摂取する人 乳酸アシドーシスを起こしたことがある人など |
チアゾリジン薬
脂肪細胞の分化を促進するため、体重増加をきたしやすいです。
HDLコレステロール値の上昇や、中性脂肪の低下にも効果があるとされます。
体液を貯留する作用があるので、浮腫や心不全には気をつける必要があります。
作用 |
脂肪細胞の分化を促進することで、骨格筋などの末梢組織におけるインスリンの感受性を改善 肝臓からのブドウ糖の放出を抑制 |
主な副作用 |
心不全、浮腫など |
この薬を使用できない人 (禁忌) |
心不全や既往歴のある人、重篤な肝機能障害や腎機能障害の人など |
グリミン薬
インスリン抵抗性の改善とインスリン分泌の促進の2つの作用を持つ唯一の薬。
ビグアナイド薬と一部同じ作用機序がありますが、乳酸アシドーシスが起きにくいとされています。
作用 |
ミトコンドリアに働きかけ、肝臓や骨格筋での糖代謝を改善 膵臓のβ細胞を保護 インスリン分泌を促進(後述のグループの作用) |
主な副作用 |
下痢、吐き気などの消化器症状 |
この薬を使用できない人 (禁忌) |
1型糖尿病や手術前後などで、インスリン療法が絶対適応の人など |
インスリンの分泌を促進する薬
インスリンを作る膵臓のβ細胞に作用して、インスリンの分泌を増やす目的で使用されます。
インスリンの分泌量が不足している場合に使用します。
薬の効き方で4分類されており、以下の通りです。
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スルホニルウレア薬(SU薬)
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グリニド薬
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DPP-4阻害薬
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GLP-1受容体作動薬
スルホニルウレア薬(SU薬)
β細胞に直接作用するので、強さに関しては、比較的強力なインスリン分泌促進が期待できます。
インスリン非依存的に働くため、低血糖を起こしやすい薬です。
作用 |
膵臓のβ細胞に直接働きかけ、インスリンを分泌 |
主な副作用 |
低血糖、体重増加 |
この薬を使用できない人 (禁忌) |
重篤な肝機能障害・腎機能障害など |
グリニド薬
速効性があるので、食後の高血糖を改善する目的で使用されます。
そのため、食直前に服用する必要があります。
効果は、3〜4時間ほど持続します。
作用 |
膵臓のβ細胞に直接働きかけ、インスリンを分泌 |
主な副作用 |
低血糖など |
この薬を使用できない人 (禁忌) |
重篤な腎機能障害など |
DPP-4阻害薬
血糖依存的にインスリン分泌を促進します。
単剤では低血糖のリスクは低いですが、SU薬やインスリンなどと併用する際は、低血糖の発症に注意が必要です。
また、体重増加しにくい薬とされています。
作用 |
食後に分泌されるインクレチンを分解する、DPP-4という酵素を阻害 インスリン分泌や、血糖を上昇させるグルカゴン抑制に関わるインクレチンを間接的に増加 |
主な副作用 |
低血糖(SU薬併用の際は特に注意)、消化器症状 |
この薬を使用できない人 (禁忌) |
1型糖尿病などのインスリン絶対適応の人 |
GLP-1受容体作動薬
以前は注射薬のみでしたが、最近では飲み薬も発売されています。
血糖依存的にインスリン分泌を促進するので、単剤では低血糖を起こしにくいです。
体重増加抑制や食欲抑制が期待されます。
作用 |
インクレチンの1種であるGLP-1を補充 インクレチンを介して、インスリン分泌促進・グルカゴン分泌抑制 |
主な副作用 |
低血糖(SU薬併用時はとくに注意)、消化器症状 |
この薬を使用できない人 (禁忌) |
1型糖尿病などのインスリン絶対適応の人 |
糖の吸収や排泄を調整する薬
摂取した糖に対して、腸からの吸収をコントロールしたり、体外への排泄を促進したりすることで、血糖値を下げる薬です。
αグルコシダーゼ阻害薬
食事由来の糖に作用するので、食直前に服用する必要があります。
単剤では低血糖を起こしにくい薬です。
低血糖を発症した場合、糖の分解を抑制している状態のため、単糖類であるブドウ糖を直ちに摂取しなければなりません。
作用 |
小腸内での糖の分解抑制 腸からの糖の吸収を遅らせ、食後の高血糖抑制 |
主な副作用 |
腹部膨満感、放屁 |
この薬を使用できない人 (禁忌) |
1型糖尿病などのインスリン絶対適応の人 |
SGLT2阻害薬
糖を尿中に排泄するので、体重減少が期待されます。
ただし、尿中の糖が増加するため、感染症や多尿による脱水などには注意が必要です。
作用 |
腎臓の糸球体でろ過されたブドウ糖が近位尿細管にて再吸収され再び体内に取り込まれるのを阻害 体外に糖を排出 |
主な副作用 |
尿路感染症、性器感染症、脱水など |
この薬を使用できない人 (禁忌) |
1型糖尿病などのインスリン絶対適応の人 |
インスリン製剤
2型糖尿病であっても、飲み薬だけで効果が不十分な場合や、大きな手術の前後にインスリン製剤の注射薬を使用します。
健常な人のインスリン分泌に近づけるため、病態に合わせて、食後の血糖値を随時下げるタイプや、基礎のインスリン分泌を補うために持続的に効果があるタイプなどを使い分けます。
作用 |
不足しているインスリンを外部から補充 |
主な副作用 |
低血糖、注射部位の皮膚が固くなるなど |
この薬を使用できない人 (禁忌) |
低血糖症状がある人 |
糖尿病治療薬は、痩せますか?ダイエット目的で服用できますか?
上記でご紹介した通り、糖尿病治療薬の一部には、体重減少が期待できる薬があります。
しかし、いずれの薬も2型糖尿病の方を対象に国が承認したものです。
つまり、健常な人がダイエット目的で服用するのは、国が承認した正式な服用方法でないため、安全性・有効性が保証されていません。
この問題については、厚生労働省や消費者センターが注意喚起を出しています。
重篤な低血糖や何かしらの副作用を被った場合、保険適応外の使用だと補償が受けられなくなるリスクがあるため、注意しましょう。
糖尿病治療薬の売上ランキングは?
2022年度の医療用医薬品国内売上高ランキングによると、SGLT2阻害薬であるフォシーガ、ジャディアンスがそれぞれ14位、20位と上位にランキングしています。
続いて、DPP-4阻害薬であるエクア、エクアとメトホルミンの合剤であるエクメット(30位)、SGLT2阻害薬のスーグラ(35位)、GLP-1受容体作動薬の注射剤トルリシティ(42位)、ジャディアンスとDPP-4阻害薬のトラゼンタの合剤であるトラディアンス(46位)、DPP-4阻害薬のグラクティブ(47位)やテネリア(48位)が50位以内にランクインしています。
下記の表より、SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬が売上上位であることがわかります。
順位 |
商品名 |
作用機序 |
14位 |
フォシーガ |
SGLT2阻害薬 |
20位 |
ジャディアンス |
SGLT2阻害薬 |
30位 |
エクア |
DPP-4阻害薬 |
30位 |
エクメット |
DPP-4阻害薬+ビグアナイド薬 |
35位 |
スーグラ |
SGLT2阻害薬 |
42位 |
トルリシティ |
GLP-1受容体作動薬 |
46位 |
トラディアンス |
DPP-4阻害薬+GLT2阻害薬 |
47位 |
グラクティブ |
DPP-4阻害薬 |
48位 |
テネリア |
DPP-4阻害薬 |
参考文献
2022年度 国内医薬品売上高ランキング
https://answers.ten-navi.com/pharmanews/25888/
Q&A
糖尿病治療薬に関するよくある質問に回答します。
糖尿病の飲み薬には、どのような種類があるのですか?
糖尿病治療に用いられる血糖降下薬は、薬の作用機序によって、ビグアナイド薬、チアゾリジン薬、グリミン薬、SU薬、グリニド薬、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬(一部注射剤あり)、αグルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬の9種類のグループに分けられます。
また、注射剤としては、インスリン製剤があります。
血糖値はいくつから薬を飲まなければいけませんか?
糖尿病診療ガイドラインによる薬物治療開始の条件は以下の通りです。
インスリン非依存状態で2型糖尿病と診断され、随時血糖値が250〜300mg/dL程度かそれ以上である場合、食事運動療法に加えて、治療開始時から薬物治療を実施する。
2型糖尿病を治すには?糖尿病は一生治りませんか?
糖尿病は、残念ながら自然治癒はしません。
しかし、食事運動療法を継続し、肥満を改善したり、生活を是正したりすることで健常な人と同等の状態になる可能性はあります。
ただし、妊娠糖尿病などの一時的な糖尿病は、その状態が終われば(妊娠であれば出産後)に改善することが多いです。
糖尿病に良い飲み物は何ですか?
ジュースや甘い炭酸飲料、スポーツドリンクなどは、血糖値を急上昇させるので、避けたほうがよいでしょう。
飲み物を飲むのであれば、水や緑茶、無糖のコーヒー・紅茶がおすすめです。
また、牛乳も血糖値の上昇を緩やかにする作用があるとされています。
糖尿病薬は、何から始めますか?
2型糖尿病の方が薬物治療をはじめる場合、日本においては、個々の病態や合併症の程度によって薬を決定することが推奨されています。
アメリカ糖尿病学会やヨーロッパ糖尿病学会では、ビグアナイド薬であるメトホルミンが第一選択薬として推奨されています。
まとめ
今回は、糖尿病の飲み薬について、それぞれの作用や特徴を紹介しました。
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2型糖尿病の治療ガイドライン
治療開始時から薬物治療が必要になる数値は随時血糖値が250〜300mg/dLが目安 -
2型糖尿病の飲み薬
ビグアナイド薬、チアゾリジン薬、グリミン薬、SU薬、グリニド薬、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬(一部注射剤あり)、αグルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬の9種類に分類 -
2型糖尿病治療薬は痩せるか
ダイエット目的での健常人の使用は、保険適応外となるため、リスクあり -
2型糖尿病治療薬の売上
DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬が売上上位
糖尿病治療は、薬ももちろん大切ですが、ベースとなる食事運動療法が重要ですので、おろそかにしないように継続を心がけましょう!