インスリン自己注射の手順・使用部位
自己注射を開始する上で重要な手順・部位について説明します。インスリンは誤った方法で投与を行うと、期待する治療効果が得られなくなります。
適切に行えるようになるまでは、毎回一つ一つ確認しながら投与しましょう。
インスリン自己注射の手順
下記がインスリン自己注射の手順になります。
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注射するにあたりアルコール綿、インスリン注射薬、注射針を準備します。
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手を洗って清潔にする。
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白濁しているインスリン製剤は、吸収が安定するように手で転がして混ぜます。
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針を注射器にまっすぐ取り付けます。
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注射器を針先を上に向け、空打ちを行います。これは注射器に破損がないことを確認するため、また針の空気を抜くために行います。インスリン製剤は基本的に空打ちが2単位ですが、製剤によっては3単位など異なるものもあるので注意が必要です。
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ダイアルを回し、医師に指示された単位に設定します。
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注射部位を決め、アルコール綿で消毒を行います。
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皮膚を軽く摘んで針を垂直に刺します。
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注入ボタンを押し、10秒数えます。
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血液が逆流しないようにボタンを押したままゆっくり引き抜きます。
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使用済みの針はキャップをして廃棄し、インスリン注射は室温にて保存します。
慣れるまでは難しく感じるかもしれませんが、何も見ずに投与できるよう繰り返し練習しましょう。
インスリン自己注射の使用部位
主な投与部位は上腕、おなか、お尻、太ももです。注射部位によって吸収速度が異なるため、医師に指示された部分に注射するようにしましょう。
吸収が早い順から①おなか②上腕③お尻④太ももとなります。また、指示された部位で毎日2〜3㎝ずつずらして注射しましょう。理由については後述の副作用に記載します。
どんな人がインスリンを使用する?インスリンの種類紹介
インスリンを使用する人はどういう人か、インスリンにはどのような種類があるかを紹介します。
インスリンを使用する人は?
インスリン注射は糖尿病の治療に用いられるとご存知の方も多いでしょう。しかし、糖尿病が軽度の場合は、すぐに薬物治療を開始するわけではありません。
まず、食事療法や運動療法による生活習慣の改善から行います。それでも血糖値が下がらない場合は、内服薬やインスリン注射で血糖コントロールを行います。
血糖コントロールの指標には、随時血糖値だけでなく、HbA1cという検査値が用いられるとご存知でしょうか?
HbA1cは過去1−2ヶ月の平均的な血糖値を反映する値です。随時血糖値よりも長い期間の血糖状態を知ることができます。
そのため、HbA1cが高いと血糖コントロール不良で速やかに治療が必要と判断され、インスリン投与が行われます。
インスリンの種類紹介
インスリン製剤は作用の仕方で以下の6種類に分類されています。
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超速効型:注射後すぐに効果が現れるが、作用時間は短い製剤。食事時に投与。
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速効型:超速効型と比較すると注射後30分程度で効果が現れる。食事時に投与。
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中間型:注射後ゆっくりと効果が現れ、約1日効果が持続。食事とは関係なく1日の中で決まった時間に投与。
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持効溶解型:注射後ゆっくりと効果が現れ、効果が変わらず約1日持続。中間型よりも作用がマイルドで効果が続く。食事とは関係なく1日の中で決まった時間に投与。
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混合型:超速効型もしくは速効型と中間型が1つの製剤となったもの。食事時に投与。
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配合溶解型:超速効型と持効溶解型が1つの製剤となったもの。食事時に投与。
また、インスリン製剤ではないですが、インスリンを分泌しやすくするGLP-1製剤と呼ばれる自己注射もあります。
これは1日1回投与の製剤や1日2回投与の製剤だけでなく1週間に1回投与の製剤もあります。ご自身が使用する製剤の特徴を把握しておきましょう。
インスリン注射による副作用
インスリンは血糖コントロールに有用な反面、使用方法によっては体に不調をきたすことがあります。自己注射の際によくあげられる副作用について説明します。
低血糖症状
最も注意するべき副作用は低血糖症状です。食事をせずにインスリンを注射すると、血糖が必要以上に下がり、低血糖状態になります。
低血糖症状は強い空腹感や手足の震え、動悸などがあげられます。最悪の場合、昏睡状態になり死に至ることもあるため、侮ってはいけません。
特に高齢者では、認知機能の低下や、症状を自覚しにくいなどがみられるため、副作用症状に気付くのが遅れて重症化することもあります。
低血糖症状は先程の「インスリンの種類」で紹介した中では速効型の超速効型、速効型、混合型、配合溶解型でより注意が必要です。
インスリン硬結(しこり)
インスリン注射を毎日同じ部位に注射していると、だんだん脂肪が硬く変化してきます。これを「硬結」と言います。
針が刺さりにくくなり、薬の吸収が悪くなる場合があるため注意が必要です。
副作用が起こった時の対処法
もし、低血糖症状が起こったときはブドウ糖を10g、もしくは砂糖を20g摂取して安静にしましょう。
糖分を含む飴やジュース飲料などでも効果があるので、外出時などは携帯しておくことが大切です。
ただし、αグルコシダーゼ阻害剤に分類されている薬剤(アカルボース、ボグリボースなど)を服用中の方は必ずブドウ糖を服用してください。
インスリン注射による硬結が出現した場合は、硬結部位を避けて投与してください。硬結は数ヶ月経つと自然に消失していきます。
インスリンの扱いで気をつけることは?
ここでは副作用以外に初心者が気をつけた方が良い保管・廃棄・打ち忘れについて説明します。
インスリンの保管方法
未使用のインスリンは冷蔵庫(2〜8℃)に保管し、開封後は直射日光が当たらない室温(1〜30℃)で保管します。保管温度が定められている理由は主に2つあります。
1つ目の理由は、冷所と室温で出し入れすることにより、結露が発生し注射器を劣化させる可能性があるからです。
2つ目の理由は、冷えたインスリンを投与することで注射部位に疼痛が出現する可能性があるからです。
またインスリンはタンパク質で構成されており、高温に弱いため、開封後は1ヶ月程度で使い切るようにしましょう。
夏場の車内への放置もインスリンの劣化が進むため注意が必要です。
インスリンの廃棄方法
廃棄するときは、血液が他の場所に付着しないようにするために、使用済みの針にキャップをしてください。
そして、ペットボトルなどの硬い容器に入れて薬局や病院などの医療機関に渡しましょう。
また、住んでいる地域によって、家庭で使用したインスリン注射針は可燃ごみとして廃棄できます。
お住まいの地域の廃棄方法を必ず確認し、その地域に合った適切な方法で処理しましょう。
打ち忘れてしまったら?
注射を打ち忘れてしまった場合の対処法は、使用しているインスリンの種類によって異なります。
「インスリンの種類」で述べた超速効型、速効型、混合型、配合溶解型のインスリンは、短時間で効果が現れるため、食事開始後20分以内であれば注射しても問題ありません。
反対に中間型、持効溶解型の緩やかに効果が現れるインスリンであれば、注射予定時間から数時間経過していても使用できることがあります。
まずは自分の使用しているインスリンの種類を確認し、あらかじめ主治医と相談しておきましょう。
インスリンを使用する高齢者への支援
高齢者の自己注射について説明します。患者の年齢が上がるにつれ、患者自身の力だけでは注射手技を適切に行うことが難しくなってきます。
もし適切な手技が難しくなってきたときは、どうすれば良いでしょうか?
今後、超高齢社会を迎える日本において、自身で自己注射を行えない高齢者をどう支援していくか?という問題は避けて通ることができません。
ここでは、その対策として家族など手助けできる人が近くにいる場合と独居の場合、2つに分けて考えていきます。
家族など手助けできる人が近くにいる場合
インスリン注射は医療行為のため、患者本人、医師、看護師による投与が基本です。
しかし、近くに家族など手助けしてくれる人がいる場合は、手助けする人が医師や看護師から注射指導を受けられます。
そして、手技を習得すれば患者本人の代わりに注射を行えるようになります。
ただし、インスリン注射は糖尿病の重症度によって、1日に何度も注射が必要となる薬です。注射回数が増加するにつれ、代わりに注射する人の負担も増えます。
特に日中は仕事をしていたり、別居している人では、全てを代わりに投与することは難しいでしょう。
その際は、患者の状態にもよりますが、内服薬のみの治療への切り替えが1つの対策法です。
また、1日1回投与の持効型インスリン製剤・週1回投与のGLP-1製剤への切り替えも1つの対策法となります。医師とよく相談し患者に合った治療を選択しましょう。
独居の場合
独居の場合、訪問看護の利用や、インスリン注射を行える施設への入所が1つの対策としてあげられます。
訪問看護を申請すると、看護師が自宅に訪問し、注射を行うことが可能となります。
訪問看護はお住まいの自治体福祉課もしくは地域包括支援センターに対し、必要書類の提出を行い、審査に通ると受けられます。
ただし、患者の年齢や介護度に応じて、訪問看護の頻度や利用できる時間は異なります。
そのため、インスリンを投与する回数が多い患者では、すべてを訪問看護で対応することは難しいです。
その点、インスリン注射を行える施設で看護師が24時間常駐していれば、1日数回の投与にも対応できます。
また、急な低血糖にも対応できるため安心です。施設を選ぶ場合は、どこまで対応しているのかを確認しましょう。
訪問看護の利用や24時間看護師が常駐していない施設に入所する場合もあるでしょう。
その際は、注射を手助けしてくれる人の負担が大きくなった時と同様の対策があげられます。
医師と相談し、注射から内服への切り替えや週1回製剤への切り替えなど患者に合った治療法を選択しましょう。
Q&A
インスリン自己注射について、日頃よく調べられている内容、よくある質問をまとめました。インスリン自己注射をより理解するため、一度お読みください。
Q1.インスリン自己注射指導の手順は?
手を洗う→インスリンを混ぜる→針を取り付ける→空打ちを行う→単位を設定する→注射部位をアルコール綿で消毒→針を垂直に刺して注入ボタンを押す→そのまま10秒数える→注入ボタンを押したまま引き抜く→針にキャップをして破棄となります。
また、針を使い回すと、針先が体内で折れて痛みを生じます。他に、感染症の危険もあるため絶対にしないようにしましょう。
Q2. 自己インスリン注射は痛い?
一般的には針が細く、短いものを使用すると痛みを感じにくいと言われています。
普段の予防接種などで使用する注射針と比較すると、インスリン注射に使用する針は、細く短く設計されています。そのため、インスリン注射では痛みを感じにくいです。
Q3.自己注射の目的は何ですか?
インスリンの自己注射は、体内のインスリン量を健康な人に近づけるために行います。
糖尿病による合併症である「視力の低下」「腎機能の低下」「運動神経障害」の進行を遅らせるために行います。
Q4.インスリン注射 なぜ10秒?
設定した単位数の薬液を正確に体内へ投与するために、注射後10秒は針を抜かない状態を保持してください。
注射の単位数が少量であれば10秒は必要ない場合もありますが、反対に単位数が1回20単位など多くなると、注入に時間がかかります。
そのため投与してから10秒以上の保持が必要になる場合もあります。
Q5.インスリン自己注射の投与経路は?
インスリン自己注射は皮下注射です。皮下注射は薬剤の持続性が高く、また安全に注射を行えます。主な注射部位は上腕、おなか、お尻、太ももです。
吸収が早い順から①おなか②上腕③お尻④太ももとなります。
Q6.インスリン注射 空打ち なぜ?
注射針内の空気を取り除いたり、正しくセットできているか、注射器に破損がないか確認をするために毎回行う必要があります。
まとめ
インスリンの自己注射は適切に使用することで、糖尿病から身体を守ることができる非常に有用な薬品です。
インスリン製剤にはいくつかの種類があり、作用時間や投与回数、投与のタイミングも異なります。
インスリンは有用な薬ですが、間違った使用方法により、効果が得られないだけでなく、低血糖症状などの副作用を招く危険もあります。
投与手順や投与回数、投与タイミングを守り、正しく使用しましょう。
もし副作用が現れた時は正しく対処することで、副作用の症状を早く改善できるため、対処法も確認しておきましょう。
また、インスリン注射には投与手順や副作用以外にも取扱いについて、注意点がいくつかあります。
保管方法や廃棄方法、打ち忘れた時の対応についても確認しておく必要があります。
高齢者のインスリン自己注射の支援については、患者周囲に手助けできる人がいる場合と独居の場合に分けて対策を紹介しました。
患者の置かれている環境や状態に合わせて、適切な治療法を選択し、糖尿病治療を行っていきましょう。