うつ病による気分の落ち込みにサプリは効果がある?
うつ病では、憂うつな気持ちが続き、いつもなら楽しめていたことにも興味がわかなくなってしまうことがあります。
前向きになれる、やる気が出るサプリがあったらうれしいですよね。
うつ病の症状を改善するサプリはあるのでしょうか?
結論から申し上げると、うつ病に用いられるサプリの効果については、効果が示されたとする研究結果、効果はないとする研究結果の両方があり、現状でははっきりしていません。
しかし、いずれにおいても、既存の抗うつ薬などの薬物治療を超えるものではないと結論づけられています。
治療においてサプリ単独で効果があるわけではなく、あくまで既存の治療を行った上で使用する、補助的な役割と認識するのがよいでしょう。
うつ病にサプリはおすすめできる?使用されるサプリ4つについて解説
厚生労働省が示している4つのサプリについて、うつ病との関連性を解説します。
ω3系脂肪酸はうつを改善するサプリ?
EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)は魚介類に含まれる成分で、その構造からω(オメガ)3系脂肪酸に分類されます。
2016年、2019年にうつ病とω3系脂肪酸の関連性を包括的に調べた研究が発表されました。
研究結果を以下に示します。(1)
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EPA含量50%超のω3系脂肪酸が投与された場合に有効
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DHA中心のω3系脂肪酸は効果が得られにくい
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うつ病が重症であるほど効果も大きい
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純度100%のEPAと純度60%以上のEPAでEPA量が1g/日以下のω3系脂肪酸がプラセボに比べて有効
これらの結果を受け、国際栄養精神医学会は「うつ病診療におけるω3系脂肪酸使用に関するガイドライン」を以下のように策定しています。
うつ病治療においてω3系脂肪酸の摂取を推奨する場合、臨床診断、身体状態、尺度を用いた精神病理学的評価のための面談を実施する |
高純度EPAまたはEPA/DHA比が2以上の両者が有効であり、推奨投与量はEPAとして1日1~2gとする |
ω3系脂肪酸サプリメントの専門的知識に乏しい場合は、同サプリメントの医薬品処方を検討する |
発現する可能性がある副作用(軟便・げっぷ)のモニタリング、包括的な脂質代謝の検査を実施する |
妊婦、小児、高齢者のうつ病治療、高リスク集団の予防にω3系脂肪酸を使用することに策定委員会でコンセンサスが得られた |
オメガ3指数(赤血球中EPA+DHA(%))低値または炎症マーカー高値のうつ病に対するω3系脂肪酸使用は、今後の研究課題 |
(引用:松岡豊.科学的根拠に基づく食によるメンタルヘルスへのアプローチ.行動医学研究.2020,vol.25,No.2,117p.)
ω3系脂肪酸サプリは一般的に安全性は高いとされていますが、出血時間を延長する可能性があります。
そのため、血小板に関連する疾患のある方や、血小板機能に影響を及ぼす薬を飲んでいる場合は、服用に注意が必要です。(2)
セントジョーンズワートは不安障害に効果ある?
セントジョーンズワートとは、セイヨウオトギリソウという植物で、抑うつ症状に効果があるとされています。
ヨーロッパの一部の国では、抗うつ薬として処方されていたり、アメリカではサプリとして販売されていたりします。
世界的に使用されているセントジョーンズワートですが、抑うつ症状や不安障害への効果は科学的に認められているのでしょうか?
セントジョーンズワートは、標準的な抗うつ剤と同様に、軽度から中等度の大うつ病に効果があるかもしれないとの一部のエビデンスが存在します。
しかし、2015年に発表された論文では、それらは質の高いエビデンスとは言い難く、臨床治療に積極的に用いられるほどの十分な根拠とはならないと結論づけられました。(3)
また、セントジョーンズワートは、ほかの薬と一緒に飲むとその薬の効果を弱めたり、逆に効果を強めすぎたりすることがあります。
モノアミン酸化酵素阻害薬と一緒に飲むと、脳内の化学物質であるセロトニンの値が上昇しすぎてしまい、命に関わることもあるので、特に注意が必要です。
S-アデノシル-L-メチオニン(SAMe)はうつに効く?
SAMeは、食べ物に含まれるアミノ酸の一種、メチオニンから体内で合成される化学物質のことです。
SAMeはうつ病、変形性関節症、および肝疾患を改善させる可能性があるとして、研究されてきました。
しかし、現時点では、SAMeはうつ病治療として使用されることは推奨されていません。
有効であるという研究もいくつかありますが、試験が短期間であったり、参加人数が少数であったりと、質の高い研究とはいえませんでした。
SAMeは、一部の医薬品との相互作用や、免疫不全状態の方が摂取するとニューモシスチス感染を助長する可能性があると考えられています。(4) (5)
イノシトールはストレスを感じやすいうつ病に効くサプリ?
イノシトールは、筋肉や神経細胞に多く存在している栄養素です。
穀物や果物などの食品に多く含まれ、脂肪肝や動脈硬化の予防、神経細胞の働きを助ける作用など幅広い役割をもっているとされています。
しかし、現時点では、うつ病に対するイノシトールの効果は認められていません。
2016年のうつ病に対するさまざまなサプリに関するメタアナリシスでは、イノシトールにはプラセボを上回る有益性はないことが明らかになりました。
イノシトールの安全性に関するエビデンスは限られていますが、胃腸障害を引き起こす可能性が指摘されています。(6)
うつ病と栄養不足の関係は?サプリは効果ある?
うつ病患者と栄養素の関係について、様々な報告があります。
これらの栄養素を補うために食生活を見直したり、サプリを摂取したりしてもよいでしょう。
亜鉛
亜鉛は味覚にかかわる微量元素として有名ですが、脳内にも存在し、神経伝達に関わる機能もあることを知っていますか?
うつ病患者には亜鉛が欠乏しているという報告や、うつ病と診断を受けた患者への亜鉛補給がうつ症状を軽減させるという報告があり、うつ病患者への亜鉛投与の有効性が示されています。(7) (8)
ビタミン(葉酸、ビタミンB群、ビタミンD)
葉酸をはじめ、ビタミンB群やビタミンDなどの栄養素は、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンといった、うつと深い関係のある脳の神経伝達物質を作り出すことに関わっています。
2023年の論文では、うつ病患者に対してこれらの栄養素を補給したところ、抗うつ薬による薬物療法への反応性が高まり、うつ症状を軽減する効果があったと報告されました。(9)
アミノ酸
トリプトファンは、代謝されてセロトニンになる必須アミノ酸の一種です。
セロトニンは幸福感を感じる物質であるため、トリプトファンの摂取は不安や憂うつな気持ちを抑える効果があるといえます。
健康な人を対象にした研究ではありますが、通常の食事に加えて、1日あたり0.14〜3 gのトリプトファンを摂取すると、健康な人の気分を改善することが期待できるという報告があります。(10)
プロバイオティクス(乳酸菌、ビフィズス菌)
腸と脳は密接に関係していることをご存知でしょうか?
緊張すると胃がいたむ、便秘が続いて調子が悪い・・・腸内細菌が、ストレスの感じ方や脳の神経系に関わっていることの一例です。
うつ病とプロバイオティクス補給の関係性について、うつ症状の改善に効果があったとする報告があります。
しかし、包括的に統計をとった研究では、プロバイオティクスのうつ病に対する効果について質の高いエビデンスはないと結論づけられ、腸と脳の関係を証明するためにはさらなる研究が望まれています。(11) (12)
鉄
脳内のセロトニンやGABAなどの神経伝達物質が作られるとき、その反応を仲介する役割を担っているのが鉄です。
鉄が不足すると、それらの物質が作られにくくなるため、うつ症状を引き起こすと考える研究者もいます。
しかし、若者の食事摂取とうつ病との関連性を包括的に調べた研究によると、鉄不足とうつ症状の相関性を示す質の高いエビデンスは得られていません。(13)
鉄不足がうつ症状を引き起こすかは、はっきりと分からないのが現状です。
うつ病に効くサプリは市販されている?
これまでに述べたサプリは市販されているため、店舗やインターネット経由で手に入れることが可能です。
市販されているものは単独の成分で販売されていますが、メンタルヘルスに関する栄養サポートを目的とした「医療機関用サプリメント」も販売されています。(14)
EPAやビタミン、亜鉛などが総合的に配合されています。
医療機関からの紹介が必要にはなりますが、効率的に複数の栄養素をとることができるので、選択肢のひとつとしても良いですね。
しかしこれらは、あくまで健康食品・サプリです。病気の効果や効能を期待して服用するものではないことに注意しましょう。
うつ病にサプリ!アメリカのサプリ選びのポイントは?
日本でも輸入業者によって、アメリカ製のサプリが手に入るようになりました。
アメリカ製のサプリを選ぶ上で注意すべき点は以下の4つです。
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アメリカで作られたサプリ製品はFDA(アメリカ食品医薬品局)の規制下にある。しかし、医薬品と異なり販売前にFDAの承認を得る必要はなく、必ずしも安全性が担保されているとは限らない。
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サプリのラベルには特定のヘルスクレーム(健康強調表示)が記載される場合があるが、FDAの評価を受けたものではない。(15)
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ラベルが英語表示のため正しく解読することが難しい。
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摂取量が日本人の体格に合わせた量ではない。
これらの点をふまえ、成分や摂取量について日本語で説明がされているか、副作用が現われた時の窓口が明確であるか、といった視点で輸入業者を選ぶようにしましょう。
うつ病対策|薬やサプリに頼らない方法
うつ病は、薬やサプリだけでは改善が難しい病気です。
ここからは、非薬物療法といわれる対応を紹介します。薬での治療にプラスして、できることから取り組んでみてはいかがでしょうか?
睡眠を十分にとる
不眠や睡眠不足などの睡眠に関する問題とメン タルヘルス不調には、密接な関係があります。
良い睡眠をとることで、ストレスを感じにくく なり、メンタルヘルス不調の発生リスクを減らすことができます。
良い睡眠は「量」「リズム」「質」の3つがポイントです。(16)
量 |
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リズム |
体内時計を整える。 【光】 【食事】 |
質 |
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ストレス環境を避ける
うつ病はストレス環境に身を置き続けることも発症原因となります。
ストレス対処には3つのRが大切とされています。(17)
レスト(Rest) |
休息、休養、休眠 |
レクリエーション(Recreation) |
運動や旅行、趣味、娯楽などの気晴らし |
リラックス(Relax) |
ストレッチ、音楽、瞑想、アロマセラピーなどの癒し |
職場や学校などの環境がストレスとなっている場合は、可能な限り休職や休学をしてストレス環境から離れ、ゆっくり休む時間をつくることが必要です。
周囲のサポートを受けられるようにする
あなたの悩みはどのようなことでしょうか?
人間関係や仕事量の問題、金銭的な問題、あるいは複数の問題を抱えているかもしれません。出口の見えないトンネルを歩いているようで、とても心細くつらいですよね。
一人で悩まず、信頼できる人に話してみることをおすすめします。
周囲のサポートを得られれば、休職に向けての手続きや、金銭的な社会支援制度を紹介してもらえるかもしれません。
ものごとを多角的にとらえられるようにする
認知療法・認知行動療法という治療法があります。
認知療法・認知行動療法は、何か困ったことにぶつかったときに、本来持っていた心の力を取り戻し、さらに強くすることで困難を乗り越えていけるような心の力を育てる方法として、いまもっとも 注目を集めている精神療法です。 |
(引用:慶應義塾大学認知行動療法研究会.うつ病の認知療法・認知行動療法 (患者さんのための資料)5p.https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/04.pdf)
困難なことや苦しいことがあったとき、うつ状態に陥っていると、悲観的になりがちです。
悲観的にとらえがちな「考え方のクセ」に注目し、柔軟でバランスの良い考え方に変えていくためのトレーニング手法です。
また、具体的な問題解決の方法や、対人関係をスムーズにするための方法も一緒にトレーニングしていきます。
認知療法・認知行動療法を薬物療法と併用することで、うつ病の再発予防効果が高まることが分かっています。
Q&A
うつ病に効くビタミンは?
うつ病で不足しているといわれるビタミンはビタミンB群、ビタミンD、葉酸です。
うつ病患者にこれらのビタミンを補給したところ、抗うつ薬に対する効果が高まったという研究結果があります。
うつ病に足りない栄養素は?
健康な人と比べると、うつ病患者では亜鉛が不足していることが分かっています。
また、ビフィズス菌などの善玉菌が少ない傾向があります。(18)
うつ病は何が不足している?
うつ病が起きるメカニズムは、まだはっきりとは分かっていません。
現在考えられている仮説は「うつ病ではノルアドレナリンやセロトニンなどの神経伝達物質が不足している可能性がある」というものです。
しかし、うつ病はさまざまな要因が重なって発症するため、必ずしもこれらの物質が不足しているだけとは限りません。
うつ病に良いものは何ですか?
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不足している栄養素をとること
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十分な休養
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規則正しい生活
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ストレスから離れて過ごすこと
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周囲のサポート
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ものごとを柔軟にとらえるトレーニング
上記のことを組み合わせて行っていくことが、うつ症状の改善に効果的です。
まとめ
うつ病とサプリ、栄養素の関係性、薬に頼らないうつ病対策について解説しました。
一部のサプリには、うつ症状を改善させたり、抗うつ薬の効果を高める効果があります。不足しがちな栄養素をサプリで効率的にとることも選択肢のひとつとしてよいでしょう。
しかし、いずれも抗うつ薬や認知行動療法などの標準的なうつ病治療に代わるものではありません。
サプリといえど、副作用の可能性やほかの薬との飲み合わせによっては重大な健康被害が起こる可能性もあります。
うつ病対策としてサプリを飲むときは、自己判断で服用せず、医師または薬剤師に相談してみてくださいね。
参考文献
(1)松岡豊.科学的根拠に基づく食によるメンタルヘルスへのアプローチ.行動医学研究.2020,vol.25,No.2,116p
(2)“海外の情報|オメガ3系脂肪酸”.厚生労働省eJIM.2021-03.https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c03/10.html
(3)Klaus Linde, et al.Efficacy and acceptability of pharmacological treatments for depressive disorders in primary care: systematic review and network meta-analysis.Annals of Family Medicine.2015,Jan-Feb;13(1),p69-79.
(4)Galizia I,et al.S-adenosyl methionine (SAMe) for depression in adults.Cochrane Database Syst Rev. 2016-10,https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27727432/.
(5)“海外の情報|S-アデノシルメチオニン”.厚生労働省eJIM.2021-03.https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c03/20.html
(6)“海外の情報|うつ”.厚生労働省eJIM.2021-03.https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c05/05.html
(7)Swardfager W, et al.Zinc in depression: a meta-analysis.Biol Psychiatry.2013-12,74(12),872-8p.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23806573/
(8)Laís Eloy Machado da Silva, et al.Zinc supplementation combined with antidepressant drugs for treatment of patients with depression: a systematic review and meta-analysis.Nutrition Reviews.2021-01,Volume79, Issue1,1–12p.https://academic.oup.com/nutritionreviews/article/79/1/1/5901339?login=false
(9)Jaqueline G, et al.Efficacy of B-vitamins and vitamin D tderapy in improving depressive and anxiety disorders: a systematic review of randomized controlled trials.Nutritional Neuroscience.2023,Volume23,Issue3.https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/1028415X.2022.2031494
(10)Asako M,et al.A systematic review of tde effect of L-tryptophan supplementation on mood and emotional functioning.Journal of Dietary Supplements.2021,Volume 18, Issue 3.https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/19390211.2020.1746725?journalCode=ijds20
(11)“脳腸相関③:脳腸相関は腸内細菌なしには語れない?!”.ヤクルト中央研究所.https://institute.yakult.co.jp/feature/008/02.php
(12)Qin Xiang Ng.Effect of Probiotic Supplementation on Gut Microbiota in Patients with Major Disorders Depressive: A Systematic Review.Nutrients.2023,15(6).https://www.mdpi.com/2072-6643/15/6/1351https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9808911/
(13)Yiqi W,et al.Associations between dietary intake, diet quality and depressive symptoms in youth: A systematic review of observational studies.Health Promot Perspect.2022,12(3),249–265.https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9808911/
(14)“【医療機関専門メンタルサプリ】メイキュアEPA1000の効果と副作用”.元住吉こころみクリニック.2022-08.https://cocoromi-cl.jp/knowledge/other/supplement/meiqua/
(15)“海外の情報|サプリメントについて知っておくべきこと”.厚生労働省eJIM.2021-03.
(16)“15分で分かる働く人の睡眠と健康”.厚生労働省|こころの耳.https://kokoro.mhlw.go.jp/e_sleep/
(17)“第4回「ストレスの対処」ってどんなこと?”.厚生労働省|こころの耳.https://kokoro.mhlw.go.jp/usagi/ug004/
(18)“うつで不足しがちな栄養素”.うつと栄養|meiji.https://m-eiyou.com/nutrients/