うつ病とは
うつ病とは気分障害の一つで、気分の落ち込みや意欲の低下といった精神症状のほか眠れない、疲れやすい、食欲減退といった身体症状も出現し、生活に支障をきたした状態をいいます。
発症の原因は、正確にはわかっておらず「脳の神経伝達物質のアンバランス」「脳の感情や意欲を司る働きの不調」などといわれていますが、うつ病の発症誘因としてストレスが関係していることは確かです。
日本におけるうつ病の生涯有病率は約6%で、15〜16人に1人がうつ病を経験する可能性があるという調査結果も出ています。
近年では社会人だけでなく中学生や高校生などの学生もうつ病と診断されるケースが増えており、うつ病は身近な疾患として「誰でもかかりうる可能性のある病気」です。
参考:『厚生労働省 うつ病を知る』
うつ病の症状
うつ病の症状は身体、精神症状の2つが出現します。
うつ病は初期症状であっても、従来のうつ病のイメージのような「無気力感」「気分の落ち込み」などが出現する場合が多い傾向にあります。
そのため、うつ病を早期発見し、早い段階で治療を開始するためにはうつ病の特徴を知っておくことはとても大切です。
うつ病の身体症状と精神症状の特徴を以下の表にまとめました。
身体症状 |
|
精神症状 |
|
うつ病の症状は1つの症状が突出して出現するというよりも「無関心や意欲低下により外見や服装を気にしなくなる」「めまいや頭痛、動悸がする」など、複数の症状が同時に出現する場合が多い傾向にあります。
初期症状
うつ病は初期であっても身体症状と精神症状の2つが出現することが多い傾向にあります。初期症状として主に以下の4点があげられます。
-
喜びや楽しさを感じない
-
食欲が減退する
-
あまり眠れない
-
気分の落ち込みが持続的にある
症状の出現方法は個人差があり、涙もろくなったり、周囲から体調を心配されたりする機会が増える場合もありますが、自分で気づくことができないとういう人も少なくありません。
初期症状であってもうつ病の症状と大差はないため、体調の変化に気づいた際はうつ病を悪化させないためにも、迷わず病院で受診してください。
うつ病は早期に治療を受けることで、治療にかかる期間を短くできる場合があります。
身体症状
うつ病の身体的症状は、睡眠障害や食欲の変化だけではなく体の痛みを感じる場合もあります。
身体症状の特徴は主に以下の5点です。
-
頭痛やめまい
-
食欲不振または過食
-
生理不順
-
性欲減退
-
肩こりや体の痛み
また、症状の出現や程度については個人差が大きく、上記にあげた5つの症状の他にも息苦しさを感じたり、手足のしびれを感じたりする人もいます。
症状の出現や程度には個人差があるため、必ず特徴としてあげた症状が出るとは限りません。
精神症状
うつ病の精神症状として基本となる症状は、気分の落ち込みや気力の低下です。
精神症状の特徴は主に以下の4点です。
-
気分の落ち込み
-
無関心
-
悲観的になる
-
口数が減る
ほかにも、意欲の低下や決断力、行動力の低下などがあります。症状の出現や程度には個人差があり、全ての症状が出現するわけではありません。
うつ病の種類と特徴
うつ病はいくつか種類があり、症状の出現方法にはそれぞれ特徴があります。
うつ病の種類について以下の3つについて解説します。
-
季節型うつ病
-
仮面うつ病
-
非定型うつ
同じ「うつ病」であっても特徴がそれぞれ異なります。そのため、それぞれの特徴を理解することでうつ病と正しく向き合うことができるでしょう。
季節型うつ病
季節型うつ病とは、病気の発症時期が特定の季節になると出現するタイプのうつ病です。季節により周期的に発症することから「季節型うつ病」という名前がついています。
夏や冬など特定の季節になると、生活に支障が出るほどのうつ症状が現れますが、季節がすぎると回復する傾向があるのが特徴です。
仮面うつ
仮面うつとは、気分の落ち込みなどの精神症状よりも肩こりや不眠、食欲不振といった身体症状が前面にでるタイプのうつ病です。
また、身体症状が強く現れるためうつ病であるという自覚が乏しいことも特徴の一つです。
仮面うつの症状は主に以下の6つがあります。
-
睡眠障害(不眠や過眠、寝つきが悪い、早朝に目覚めるなど)
-
食欲不振または過食
-
頭痛やめまい
-
肩こり、体の痛み
-
生理不順、性欲の低下
-
腹痛、下痢、便秘
身体症状の出現は多岐にわたり、個人差もあるため上記の症状以外にも別の症状が出現する可能性があります。
非定型うつ病
非定型うつ病とは、従来のうつ病と異なる特徴があるうつ病です。
従来のうつ病と同様に、精神症状や身体症状があり、うつ病の診断基準を満たしているのですが、うつ病と異なる点は「楽しいことや良いことがあると不調が軽減」して元気になります。
しかし、元気になっても長続きはせず気持ちが沈んだり、食欲不振になったりと、うつ病の症状が出現します。
非定型うつ病と従来のうつ病の主な違いについて以下の表にまとめました。
非定型うつ病 |
|
従来のうつ病 |
|
非定型うつ病は従来のうつ病と同じ症状が出現することが多いですが、一時的に「元気になる」という点では従来のうつ病と大きく異なります。
明るい人でもうつ病ですか?
人前では明るい表情を見せていても実はうつ病である可能性があります。
うつ病の一つに、特に芸能人に多いといわれている「微笑みうつ病」というものがあり、気分の落ち込みが継続してある場合でも笑顔を見せたり、明るく振る舞ったりしてしまいます。
微笑みうつになりやすい人は、自分のツラさを隠し周囲に明るく振る舞うため、家族や友人など他者から気づかれにくいです。
また「仮面うつ病」の場合も気分の波があることからうつ病であるにも関わらず「明るく」見える傾向があります。
うつ病は「気力がなく暗い」という印象が強くありますが、明るく見える人であっても、うつ病である可能性があるのです。
ほかにも、笑顔のうつ病とは異なりますが躁うつ病(双極性障害)という疾患も存在しています。
うつ病のセルフチェック
『簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)』を用いて、うつ病のセルフチェックをすることができます。
厚生労働省のホームページにいくと、簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)を用いて無料で「うつ病の傾向があるかどうか」を診断することが可能です。
「いきなり受診するのは勇気がいる」「まずは無料でうつ病かどうかを診断したい」と考えている人は、セルフチェックをしてみてはいかがでしょうか。
セルフチェックをおこないたい方は、厚生労働省『うつ度チェック簡易抑うつ尺度(QIDS-J)』で簡単な診断テストをおこなってみると良いでしょう。
ただし、セルフチェックの診断結果は、正式なうつ病診断をおこなう上での目安となるだけなので、うつ病の傾向がある場合や心配な症状がある人は医療機関への受診をしてください。
引用:厚生労働省『うつ度チェック簡易抑うつ尺度(QIDS-J)』
受診が必要な状況とは?
眠れない日が続いていたり、鬱々とした気分が続いたり体調の変化を感じている場合は、すぐに精神障害を疑い精神科病院か心療内科が入っている病院に受診しましょう。
受診が必要な兆候として以下の3点があります。
-
うつ状態(気分の落ち込みや無気力感など)が2週間以上続いている。
-
睡眠の質に変化がある(眠るまでに時間がかかる、途中で何度も起きる、過眠など)
-
集中力や判断力の低下している
受診が必要な兆候は、あくまでも一つの目安であるため「受診が必要な兆候が出ていないから」といって受診をためらう必要は一切ありません。
体調の変化に気づいても「まだ大丈夫」「もう少し様子をみよう」と考えるのではなく、変化に気づいたら迷わず受診をして必要な治療を受けてください。
うつ病の診断基準
うつ病の診断は、アメリカの診断基準である「DMS-5」と世界保健機関(WHO)の「ICD-10」の二つが用いられます。
それぞれの診断基準について以下の表にまとめました。
DMS-5 |
うつ病に関連する症状9つ(※1)のうち
1または2を含む5つ以上の症状があり、2週間以上続いている場合 |
ICD-10 |
抑うつ気分、興味と喜びの喪失、易疲労感の増大のうち2つ以上の症状があり、1〜7つの症状(※2)のうち2つ以上が2週間以上続く場合 |
(※1)DMS-5におけるうつ病の診断基準となる症状9つ
-
ほぼ1日中、ほぼ毎日、気分が落ち込んで晴れない。
-
ほぼ1日中、ほぼ毎日、何に対しても興味がなく、喜びも感じない。
-
ほぼ毎日、食欲低下または亢進し、体重の増減が大きい。
-
ほぼ毎日、不眠または過眠である。
-
ほぼ毎日、話や動作が緩慢になり、苛立ったり落ち着きがなくなる。
-
ほぼ毎日、疲れやすさを感じる。
-
ほぼ毎日、自分の価値がない様に思え、自分を責める。
-
ほぼ毎日、集中力が低下して物事が考えられない。
-
自殺や自傷を考えたり、計画したりする。
(※2)ICD-10診断基準
-
集中力と注意力の減退
-
自己評価と自身の低下
-
罪責感と無価値感
-
将来に対する希望のない悲観的な見方
-
自傷あるいは自殺の観念や行為
-
睡眠障害
-
食欲不振
二つの診断基準を元に医師がうつ病であるかどうかを診断しています。
引用:(※1) 看護ルー (※2)うつ病の診断基準とは?
診断書はもらえますか?
うつ病と診断された場合、診断書をもらうことが可能です。
診断書をもらうためには、精神科病院や心療内科が入っている病院へ受診し専門の医師より診察を受ける必要があります。
医師が「うつ病である」と判断した場合に限り診断書が作成されます。
診断書は診断書は当日中に作成できるため、その日のうちに持ち帰ることが可能です。
しかし「うつ病と断定できない」「休職が必要かどうかを見極める必要がある」と、医師が判断した場合は一定期間、診断書を発行しない場合もあります。
受診したからといって「診察内容によってはすぐもらえるわけではない」ということを覚えておきましょう。
診断書がほしい場合は、受診の際に「診断書がほしい」旨を伝えることで、うつ病と診断された場合にスムーズに診断書をもらうことができます。
Q&A:うつ病に関するよくある質問
うつ病に関してよくある質問をまとめました。
メンタルが壊れる前兆はありますか?
心が壊れる前兆として、4つの症状があります。
-
無気力感、無関心
-
食欲不振または過食
-
睡眠の質が落ちる
-
気持ちの落ち込みが続いている
心が壊れる前兆は個人差があり、必ず上記4つの症状が出現するとは限りません。
他にも「顔つきが変わる」「ぼんやりすることが多くなる」などの症状もあるため、少しでも体調の異変に気がついたら早めに受診することをおすすめします。
うつと怠けの違いはなんですか?
うつ病と怠けの違いは「身体的、精神的な症状の出現」の有無です。
怠けの場合、気分の落ち込みは一時的で、遊びに行くなどで気分をリフレッシュすることができます。
一方、うつ病である場合、気持ちの落ち込みが継続的にあり、睡眠障害や食欲不振といった症状が出現します。
うつ病と怠けの違いは個人的に判断することが難しい場合が多くあるため、うつ病を疑う際は医療機関を受診すると良いでしょう。
うつ病かどうかの判定方法は?
うつ病かどうかの判定方法は、患者の感じている主観的な情報とうつ病を診断するためのDMS-5やICD-10といったガイドラインを元に医師が判定します。
うつ病と間違えやすい病気はたくさんあり「身体疾患」と「精神疾患」に分けられます。
例として、身体疾患ではパーキンソン病や脳血管疾患を、身体疾患では強迫性障害や統合失調症・双極性障害などがあげられるでしょう。
うつ病はどうやったら診断されますか?
うつ病の診断には「DMS-5」と「ICD-10」の二つの診断基準が用いられ、医師は規定の項目にそってうつ病かどうかを診断します。
自分が「うつ病」だと思って受診しても、実はうつ病ではなく全く異なる病気である可能性もあるため、うつ病と似た症状がある場合であっても必ずしもうつ病と診断されるわけではありません。
まとめ
うつ病とは、気分障害の一つで易疲労感などの身体症状と気分の落ち込みや無気力感といった精神症状が出現します。
日本人におけるうつ病の生涯罹患率は約6%であり、近年では中学生や高校生といった学生がうつ病と診断されるケースも増加していて身近な病気の一つです。
うつ病の身体症状と精神症状を以下の表にまとめました。
身体症状 |
|
精神症状 |
|
症状の出現は個人差が大きく、必ずしも表に記載された症状が出現するとは限りません。
また、うつ病はいくつか種類があり「笑顔で明るく振る舞う」タイプのうつ病もあります。
笑顔で明るく振る舞うタイプのうつ病では「非定型うつ病」や「微笑みうつ」があり、一見すると、うつ病と認識することは難しいですが、うつ病の診断基準を満たしていることに変わりはありません。
うつ病の診断方法は「DMS-5」と「ICD-10」の二つの診断基準が用いられ、医師は基準にそって診断をします。
うつ病と診断された場合は、当日に診断書を発行してもらうことが可能です。
うつ病を疑う体調の変化を感じた際は「まだ大丈夫」「もう少し頑張ろう」と思うのではなく、すぐに受診をして医師に相談することをおすすめします。