うつ病の診断基準からみる、症状の特徴とは?
うつ病はさまざまなこころやからだの症状が現れる疾患です。そして、その症状が本人にとって苦痛となったり、社会生活に差し障ったりします。
これらの症状が薬物や別の病気によるものでない場合、うつ病と診断されます。[1,2]具体的に診断基準に挙げられている症状の特徴を見ていきましょう。
主要なふたつの症状
次に挙げる二つの症状は、うつ病の診断基準の中でも、どちらかは必ず満たす必要があるものです[1,2]。つまり、うつ病の中心的な症状となります。
抑うつ気分
落ち込んでいて気が滅入るという症状です。
うつ病は気分障害といわれることからもわかるように、憂うつな気分が特徴になります。悲しい、絶望しているというふうに表現されることもあります。
誰にでも落ち込むことはありますが、うつ病の場合はこれが一日中、毎日続くことが特徴です。[2]
興味、喜びの著しい減退
うつ病になると、これまで楽しかったことが楽しくなくなります。趣味に打ち込めなくなったり、いいことがあっても嬉しいと思うことができなくなったりします。
何もかもに興味・関心を持つことができず、何か新しいことにチャレンジすることもできません。[2]
そのほかの代表的な症状
うつ病では他にも多様な症状をきたします。上記の二つとこれからご説明する症状から、少なくとも合計で五つの症状があることが診断の必須条件です。[1,2]
著しい体重減少・増加、または食欲の減退または増加
うつ病の典型例では食欲がなくなり、食事が喉を通離ません。それがしばらく続くため痩せてしまいます。一方で、過食となる人もいます。体重増加も特徴の一つです。[1,2]
不眠あるいは睡眠過多
うつ病になると眠ることにも支障が出ます。寝つきが悪くなる・途中で目が覚めて眠れなくなる・早朝に起きてしまうなど症状の現れ方はさまざまです。
逆に眠りすぎてしまう人もいます。いくら寝ても疲れが取れないためになかなか起きられません。[1,2]
精神運動性の焦燥あるいは抑制
そわそわと落ち着かない行動をとったり、動きが遅くなったりします。精神運動性の症状とは、精神状態と連動したからだの動きのことです。
例えば焦燥が起こると、焦る気持ちからじっとできずに常に動き回ります。
逆に抑制が起こると、気力がわかず思考力も低下するため、口数が減って閉じこもりがちになったりします。
これは本人の自覚症状ではなく、周りから見てわかる変化です。[2]
易疲労感、または気力の減退
とても疲れやすくなり、何もかも億劫でやる気がなくなってしまいます。趣味に対しても仕事に対しても気力が湧かず、意欲をもって取り組むことができなくなります。[2]
無価値感、または過剰あるいは不適切な罪悪感
自分には価値がない、役に立たなくて申し訳ないという気持ちになります。[1]極端に自己評価が下がってしまうためです。[2]
思考力や集中力の減退、または決断困難
考えがまとまらなくなり、何か決断をする場面で決めることができません。学業や仕事・家事などに対して集中できなくなり、ミスが増えます。[2]
死についての反復思考、反復的な自殺念慮、自殺企図、自殺計画
死にたいという気持ちを持つようになります。
自己評価が極端に下がっており、「生きていても価値がない」「こんな自分がいることが申し訳ない」などと考えるようになるためです。
うつ病は自殺につながる病気です。死について考えるようであれば早急に治療を受けなくてはなりません。[2]
症状はどのくらい続くのか
基本的に、これらの症状は短期間では終わりません。よくある「落ち込んでいる状態」との違いは、症状がしばらくの間続いているということです。
診断基準上は、最低でも二週間はほぼ毎日、一日中続いている必要があります。[1,2]
症状の日内変動について
症状は一日中続いている必要があると述べましたが、同じ一日の中での強弱はあります。
典型的には、朝は特にひどく、午後には少し良くなってくることが多いです。[1]
特に、落ち込みなどの抑うつ気分・精神運動性の抑制・疲労感・気力の減退・思考力や集中力の減退などは一日のうちでも変化が大きいものです。[2]
他人から見てわかるうつ病の人の発するサインとは?初期症状を見逃さないで
本人はうつ病だと思わなくても、周りの人がうつ病に気づくための症状がいくつかあります。早期に手を打つことで、重症化を予防し寛解につなげることができるのです。
もし次のような症状に気づいたら、早めに病院の心療内科や精神科・メンタルクリニックへ受診を勧めてください。
うつ病の人の発言とは?病んでいる人が言う言葉
自己評価が下がったことにより、自分を責めたり卑下したりする発言が多くなりがちです。
「自分が悪い」「どうせ私なんて」「迷惑をかけて申し訳ない」という言葉が頻回に発せられるようになったら要注意です。声に力はなく、単調な口調で喋ります。[2]
また、うつ状態の人に特有の妄想がいくつかあります。悪いことばかりを考える、「微少的内容」と呼ばれる妄想です。[2]
明確な根拠なく「お金がない」「大変な罪を犯してしまった」「大きな病気なんじゃないか」などの発言をするようになった場合、うつ状態による妄想を疑います。
目がおかしい?どんな表情に注意すればいいのか
憂うつな気持ちは表情に現れます。目つきがおかしく暗い表情をしていたり、常に不安そうな顔をしていたりするようであれば要注意です。
俯きがちになったり、涙もろくなったりもします。[3]一時的なものであれば問題ありませんが、うつ病の場合は長期に抑うつ気分が続きます。[1]
数日にわたってずっと暗い顔をしているのであれば、うつ病を疑った方が良いでしょう。
喋らない?落ち着かない?うつ病の人の行動
思考力が低下して、ぼーっとしたり口数が減ったりします。集中力を欠き、仕事でのミスが目立つようになります。
また、あらゆることに興味を失い、趣味ですらも楽しめません。新聞を読んだりテレビを見たりもしなくなります。
あるいは、逆にそわそわと落ち着かないことがあります。何かに急き立てられるようにしてじっとしていられずに焦っている状態です。
活動的な様子でエネルギーが溢れていて、「あれもやりたいこれもやりたい」ということで落ち着かないのとは違います。[2]
からだの不調を訴える?うつ病と身体症状
うつ病はこころの病気ですが、さまざまなからだの不調も症状として現れます。すでにご紹介した診断基準のように、疲れやすさ・食欲不振・不眠はよくある症状です。
他にも、頭痛・肩こり・耳鳴り・目のかすみ・動悸・胃のむかつき・手足の冷えなど症状は多彩です。さらに、多くの場合は一つではなく、複数の症状を訴えます。[1]
そのため、うつ病の診断がつくまで、自分はこころの病気だとは思わず「体調が悪い」と考える患者さんも多くいます。
事実、うつ症状がある心療内科の患者さんに対する調査では、64.7%の方が最初に受診した診療科が内科であったという結果でした。[4]
うつ病の人にやってはいけないこと
うつ病の症状がある人に対して逆効果になることがいくつかあります。
とは言っても、うつ病の患者さんに対して、必要以上に慎重になったり、腫れ物を触るように扱ったりする必要はありません。
きちんとやってはいけないことを踏まえ、そっと寄り添う気持ちで支援してください。
怠けていると決めつけること
「怠けている」という言葉は苦しんでいる患者さんをより苦しめることになります。うつ病は精神医学的な病気です。
専門家のもとで正しい治療を受ければ、時間はかかってもまた元のように日常生活を送ることができるようになります。決して怠けているわけではありません。[1]
頑張ってとひたすらに励ますこと
うつ病の人は頑張ろうとすると、余計に焦ってしまいます。励ましのつもりであっても、ひたすらに頑張ってという言葉は逆効果です。
励ましが全て悪だというわけではありませんが、一番辛い「頑張っていても頑張れない」ときにやみくもに励ますことは避けてください。[1]
うつ病になった原因を探そうとすること
本人の性格や環境など何かしら原因を探すことも良くありません。下手に考えると自分自身を責めてしまうため、症状はさらに悪化して悪循環に陥ります。
原因が分かっても、それがうつ病の治し方に反映されるわけでもありません。うつ病の治療の基本は投薬と休養・休職です。[1,5]
辞職や離婚など大きな決断を迫ること
うつ病の人に重大な決断をさせようとしてはいけません。うつ病の人は思考力が低下しており、決断能力も落ちてしまっています。
正常な判断ができる状態ではありません。例えば、仕事が原因でうつ病になっていたとしても、辞めるかどうかの判断は症状の改善を待ってからの方が賢明です。[1]
過剰に共感したり飲み込まれたりすること
うつ病の人に共感的に接することは非常に重要ですが、過剰に親身になりすぎてはいけません。
これは、患者さんのためというよりも、自分のために必要なことです。踏み込み過ぎることで、自分も巻き込まれて気持ちが落ち込んでしまう可能性があるからです。
家族や親しい友人であっても、適度な距離を保って接してください。決して一人で患者さんの全てを理解し受け止めようと考えてはいけません。
もし辛いなと思った時は、無理せず少しだけ距離を置いてください。[6]
うつ病が重度?治らないとどうなるの?
重度のうつ状態になると、思考は止まってしまいます。何もかもが億劫になって、話しかけられても言葉を発しなくなります。
外部からの刺激に対して無反応になり、ずっと床に伏せたままの状態に陥るのです。このうつ病の重症症状はうつ病性昏迷と呼ばれます。[2]
もう一つ注意しなければならないのは自殺です。うつ病は自殺につながる病気だということを忘れてはいけません。
外来通院中の患者さんでも普通の人と比べて5倍もの自殺リスクがあると言われています。特に自殺の危険が高いのは次のような方です。[2]
-
男性
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高齢(65歳以上)
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単身者、子供がいない人
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自殺をしようとしたことがある人
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精神科に入院をしたことがある人
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自殺の家族歴がある人
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アルコール依存や薬物依存の合併
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不安が強い人
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パニック発作が合併している人
-
他に重症の身体の病気がある人
Q and A
職場でうつ病と自分で言う人がいるけど本当?嘘?見抜くことはできるの?
本当かどうかを見極めるのはなかなか難しいです。仕事などを休みたいがために嘘をついている可能性も否定できません。
ただし、仕事はできなくても好きなことをしていると気が晴れるような、いわゆる「新型うつ」のケースもあるでしょう。
新型うつ病という診断名は正式な医学用語ではありません。
ただ、従来イメージされるような典型的な症状とやや異なるタイプのものをこのように呼ぶことがあります。「新型うつ病」には次のような特徴があります。[5,7]
-
若い人に多い
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全体的に軽症である
-
好きなことは楽しむことができる
-
過眠・過食になりやすい
-
悪いことを他人のせいにしがち
一般的なうつ病でも、新型うつ病でも、責めたりせかしたりするべきでないことは同じです。頭ごなしに「病気じゃない」「怠けている」と決めつけることも避けてください。
うつ病になりやすい性格ってあるの?
典型的なうつ病の病前性格として、「メランコリー親和型性格」が挙げられます。
この性格の人は、几帳面で秩序を大事にし、他人との関係を重視する傾向にあります。完璧を追い求め、とても真面目で勤勉です。
特に大きなトラブルがなく物事が回っている時には、周りからの評判も良く頼られる存在です。
しかし、急な環境の変化があると対応しきれなくなって調子を崩します。これは昇進など、一見すると良いことであっても起こり得ます。
また、人からの頼まれごとが重なると断れずに抱え込んでしまいがちです。
そのような状況でも完璧を求めて頑張りすぎた結果、どこかで破綻してしまいます。
するべきことができないと自分を責めて焦り、そのことが余計事態を悪化させます。そうしてうつ病の発症につながるのです。[2]
一方で、いわゆる「新型うつ病」はまた違った病前の性格傾向があると言われています。どちらかというと自己中心的で、何かあると他人のせいにしがちです。
自己評価は根拠なく高く、失敗を恐れる傾向にあります。
また、些細な注意や叱責にも過剰反応してしまい、腹を立てたりひどく落ち込んだりしてしまいます。どちらかというと精神的な未熟さが目立つ性格です。[2,7]
身近な人がうつ病になりかけているかもと思った時の対処は?
うつ状態は自分で気が付きにくいことも多いです。まずは、ストレスがかかっている状況を自覚してもらうことが大切です。
疲れているようにみえる、様子がおかしいということを伝えてください。[8]
併せて、ゆっくり休めるような環境づくりをすることも重要です。[3]あれこれと仕事を頼むことは避けて、リフレッシュできるようにしましょう。
それでもよくならないようであれば、早いうちに受診を勧めることが重要です。
「精神科」というと敷居が高いかもしれませんが、最近は受診しやすいメンタルクリニックも増えています。
まとめ
うつ病の患者さんに特徴的な症状やサインについて解説をしました。こころにもからだにもさまざまな症状があらわれることをご理解いただけたでしょうか。
うつ病は憂うつな気持ちや喜び・興味の喪失をはじめとして、心身の健康に多大な影響をきたします。重症化すると自殺をしてしまう可能性がある、注意するべき病気です。
その一方で、休養や精神療法・薬物療法により治療することができる疾患でもあります。初期のうちにうつ病を見つけて受診につなげることが早期回復への第一歩となります。
うつ病患者さんの特徴の中には表情や言動など周囲から気がつきやすいサインもあります。もしあなたの近くに心配な人がいるのであれば、しっかり観察してみてください。
参考文献
[1] 日内会誌. 110:2540-2552, 2021.
[2] 標準精神医学第8版, 医学書院, 2021.
[3] 国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト|うつ病
[4] 心身医. 42(9): 585-591, 2002.
[5] 日本うつ病学会|うつ病Q&A
[6] 日精保健看会誌. 29(2): 40-49, 2020.