うつ病の診断に血液検査が必要?
一般にうつ病の診断に使われているのはアメリカ精神医学会が発表するDSM-5という診断基準であり、うつ病の診断に血液検査は必要ありません。
うつ病診断基準(DSM-5)を以下に紹介します。
うつ病(大うつ病性障害)の診断基準(DSM-5)
A~Cをすべて満たす必要がある。
A |
以下のうち5つ以上が同じ2週間の期間中ほぼ毎日認められ、かつそのうちの1つが抑うつ気分または興味もしくは喜びの喪失でなければならない。 |
1 |
ほぼ1日中、ほとんど毎日みられる抑うつ気分。 |
2 |
ほぼ1日中、ほとんど毎日みられるほとんどすべての活動における興味、喜びの著しい減退 。 |
3 |
有意な(5%以上)体重減少/増加 、食欲の減退/増加。 |
4 |
ほとんど毎日の不眠または睡眠過多。 |
5 |
他者によって観察される、ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止。 |
6 |
ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退。 |
7 |
ほとんど毎日の無価値観、または過剰あるいは不適切な罪責感 。 |
8 |
ほとんど毎日の思考力や集中力の減退、または決断困難。 |
9 |
死や自殺についての反復思考 、自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画。 |
B |
症状は臨床的に著しい苦痛または社会的・職業的・他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。 |
C |
エピソードは物質や他の医学的状態による精神的な影響が原因とされない。 |
(“抑うつ症候群”.MSDマニュアルプロフェッショナル版.2020-3/“うつ病や躁病などの気分の障害と適応障害”.飯田橋東口内科心療内科診療所.を参考に作成)(1) (2)
このように、うつ病の診断においては医師による抑うつ症状の確認(問診)が主となっています。
精神疾患の診断において、画像検査、生化学・生理学的検査から得られる情報は診断確定に直結しないのが一般的であり、うつ病の場合も例外ではない。
(日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅱ.うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害 2016.より引用)治療ガイドラインにも、血液検査は診断に直結しないことが記載されています。
うつ病で血液検査をするのはなぜ?
うつ病かもしれない……と思い、心療内科や精神科を受診した際、血液検査をすることがあります。
うつ病で血液検査をする理由は以下の3つです。
-
うつ病と関連する物質の存在を確認するため
-
うつ病以外の原因を除去するため
-
うつ病治療薬を安全に使用するため
この3つについて解説していきます。
うつ病と関連する物質の存在を確認するため
問診によるうつ病診断では、医師の経験や考えにより、診断名が異なることがあります。
そのようなことを避けるため、血液検査による客観的なうつ病診断法の登場が待たれています。
その診断法のひとつとして期待されているのが、PEA(リン酸エタノールアミン)です。
うつ病の血液検査|PEA 異常な数値は?(3)
PEAは、ほとんどすべての生物の脳や肝臓、動脈、心筋などに存在する物質。
その中でも特に脳の神経細胞の軸索部分や細胞膜に多く存在しており、喜びなどの感情に関係すると考えられています。
このPEAがうつ病と関連していることを、川村則行医師らのグループが発見しました。
うつ病などの精神疾患のある患者と健常者とで血中のPEA濃度を比較すると、「うつ病群」および「うつ病部分寛解群」では、健常者より有意にPEA濃度が低下していました。
血中PEA濃度が1.5μMより低いことがうつ病の目安となります。
PEAがうつ病の診断に有効であると認められれば、うつ病を血液検査で客観的に診断できる日がくるのも遠くないかもしれません。
うつ病以外の原因を除外するため
心疾患や脳血管疾患、慢性疼痛を伴う身体疾患などではうつ病併発率が高くなります。(4)-11p
うつ病を併発する原因があれば、原因疾患に対する加療が必要です。
うつ病の血液検査|甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症とは、血中の甲状腺ホルモン作用が低下した状態です。
甲状腺ホルモンは代謝をあげる作用があるため、低下すると代謝が落ちた症状が現れます。
これらの症状がうつ病と似ているため、鑑別することが必要です。(5)
甲状腺機能低下症の症状 |
無気力、疲労感、むくみ、寒気、体重増加、動作緩慢、記憶力低下、便秘 |
甲状腺機能低下症診断に必要な血液検査項目 |
FT3、FT4、TSH |
うつ病の血液検査|クッシング症候群
クッシング症候群とは、副腎皮質から分泌されるホルモン、コルチゾールが過剰産生になる病気です。
身体症状とともに高率に精神症状を伴う疾患であるため、うつ病との鑑別が必要となります。(6)
クッシング症候群の症状 |
中心性肥満、満月様顔貌、顔面紅潮、易疲労感、筋力低下、皮膚が薄くなる、高血圧、うつ症状など |
クッシング症候群診断に必要な血液検査項目 |
ACTH、コルチゾール |
うつ病の血液検査|鉄不足
脳内のセロトニンやGABAなどの神経伝達物質が作られるとき、その反応を仲介する役割を担っているのが鉄です。
鉄が不足すると、これらの物質が作られにくくなるため、うつ症状を引き起こすと考えられています。
貧血は動悸、息切れ、頭痛、めまい、倦怠感、易疲労感、集中力低下などをきたし、これらの症状がうつ病と似ているため鑑別が必要です。
鉄欠乏性貧血の症状 |
疲労感、息切れ、動悸、めまいなど |
鉄欠乏性貧血診断に必要な血液検査項目 |
MCV(平均赤血球容積)、血清鉄、TIBC(総鉄結合能)、フェリチン |
うつ病の血液検査|女性ホルモン
更年期になると、女性ホルモン分泌が低下することで、身体的・精神的変化が引き起こされます。
また、家庭や職場における環境の変化も、抑うつ症状を引き起こす原因のひとつです。(7)
うつ病だと思っていたら実は更年期障害だった、ということもあります。
閉経前後の40代後半~50代の女性で気分の落ち込みが見られる場合は、血液検査で女性ホルモンを測定し、更年期障害の鑑別をするのが良いでしょう。
更年期障害の症状 |
抑うつ症状、意欲の低下、頭痛、めまい、疲労感、手足のしびれなど |
更年期障害診断に必要な血液検査項目 |
エストラジオール(E2)、卵巣刺激ホルモン(FSH)(8) |
うつ病の血液検査|セロトニン
抑うつ症状には脳内セロトニンの低下が考えられています。
血液検査でセロトニンを測定することはあるのでしょうか?セロトニンは血液検査で数値を測定することが可能です。
血中セロトニン値の低値はうつ病や双極性障害の可能性を示唆します。(9)
しかし、保険適用となっていないため、一般病院で検査することはほとんどありません。
うつ病治療薬を安全に使用するため
うつ病の治療では認知行動療法などの非薬物療法のほかに、薬物療法として抗うつ薬を使用します。
薬によっては、臓器の状態により使えない薬、減量が必要な薬があります。
それらを確認するために血液検査が必要です。
腎臓・肝臓・心機能を確認
腎機能や肝機能が低下している患者では、薬を使用する前に禁忌(薬を使ってはいけない)に該当しないか確認します。
腎機能が悪い方には量を減らす必要がある薬があるため、血液検査で腎機能の度合をチェックします。(10)
肝機能に影響を及ぼす薬を使用している方は、薬を飲み始めてからも定期的に肝機能の検査が必要です。
また、QT延長という心電図変化を起こす可能性がある薬は、不整脈の原因となるため使用前に心機能検査をすることがあります。
オランザピンは、統合失調症や双極性障害のうつ症状に用いられる薬です。
使用により血糖上昇を引き起こすことがあるため、糖尿病患者に禁忌となっています。
確認事項 |
薬の種類 |
注意事項 |
腎機能 |
SNRI、NaSSA(※) |
腎機能低下患者で減量、腎機能によっては禁忌。 |
肝機能 |
三環系抗うつ薬 |
使用により肝障害が起こることがある。 |
デュロキセチン |
高度肝機能障害に禁忌。 | |
心機能 |
一部の三環系抗うつ薬 エスシタロプラム |
QT延長のある患者に禁忌。 |
糖尿病の有無 |
オランザピン |
糖尿病患者に禁忌。 |
※SNRI:選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬
NaSSA:ノルアドレナリン・選択的セロニン作動性抗うつ薬
うつ病治療薬の血中濃度を測定するため
薬の血中濃度測定は、治療効果や副作用をモニタリングするために行われます。
一般的にはTDM(Therapeutic Drug Monitoring:薬物血中濃度モニタリング)と呼ばれ、治療効果や副作用が血中濃度と相関する場合に有効です。
神経精神薬理学におけるTDM に関するコンセンサスガイドラインでは、TDMを行うべき薬を4 段階の推奨レベルにわけています。
最も高いレベル(レベル1)で推奨される薬物グループのうち、うつ病治療のために使用される薬には以下のものがあります。
分類名 |
剤名 |
気分安定剤 |
炭酸リチウム、カルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウム |
大部分の三環系抗うつ薬(およびその代謝物) |
アミトリプチリン (ノルトリプチリン)、クロミプラミン ( N-デスメチル-クロミプラミン)、イミプラミン (デシプラミン) |
MARTA(※) |
オランザピン |
SSRI(※※) |
シタロプラム |
※MARTA:多元受容体作用抗精神病薬
※※SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬
(参考:精神・神経学における薬物血中濃度モニタリング(TDM): 神経精神薬理学にお ける TDM に関するコンセンサスガイドラインの包括的サマリ 2017 年更新版; 臨床家のためのツール(日本語版))(11)
うつ病の血液検査項目は?検査費用はいくら?
うつ病で行う血液検査項目にはどのようなものがあるでしょうか?
検査費用も気になるポイントの一つと言えます。
医師の方針や鑑別疾患により項目・費用ともに変わりますが、代表的なものについて解説します。
うつ病の血液検査項目
血液検査項目には血液学検査、生化学検査、内分泌学検査の3つがあります。
検査の種類 |
検査について |
検査項目 |
血液学検査 |
白血球・赤血球・血色素・血小板など、血液成分そのものを調べる検査 |
WBC、RBC、Hb、Ht、Plt、MCV、MCH、MCHCなど |
生化学検査 |
血液や尿中の糖質・タンパク質・酵素などを調べる検査 |
BUN、Cre、AST、ALT、γ-GTP、ALP、Fe、TIBC、Na、K、Alb、フェリチンなど |
内分泌学検査 |
ホルモンを測定し、ホルモン分泌器官(甲状腺・副腎・膵臓・下垂体など)の異常をチェックする検査 |
TSH、FT3、ACTH、コルチゾール、FT4、E2、FSHなど |
検査項目と確認している臓器、疾患の対応については以下のとおりです。
確認項目 |
検査項目 |
甲状腺 |
TSH、FT3、FT4 |
副腎 |
ACTH、コルチゾール |
鉄欠乏性貧血 |
Hb、Ht、MCV、MCH、MCHC、Fe、TIBC、フェリチン |
更年期障害 |
E2、FSH |
腎機能 |
BUN、Cre、Na、K |
肝機能 |
AST、ALT、γ-GTP、ALP |
うつ病の血液検査にかかる費用
うつ病は一般的に長期的な治療が必要と言われています。そのため、診療にかかる費用がどのくらいか気になりますよね。
保険診療での医療費は一律に決められています。
そのため、うつ病治療を行う心療内科・精神科の診察にかかる費用は、保険診療であればどこの病院を受診しても、ある程度金額は一定になります。
おおよその目安は以下のとおりです。
初診にかかる費用 |
2,500円~5,000円 |
再診にかかる費用 |
1,500円~2,500円 |
初診費用に幅があるのは、血液検査や心電図検査、心理検査など、必要に応じて行われる検査が異なるためです。
血液検査は、調べる項目により異なりますが、一般的な内容であれば3割負担で1,500円ほどが目安となります。(12)
前述したうつ病の診断補助として期待されるPEAについては、現在のところ保険適用となっていません。
PEA研究の第一人者である川村医師の川村総合診療院でのみPEA採血を行っています。
予約方法により4,500円~14,300円の費用がかかります。(13)
うつ病治療費用における支援制度
うつ病は、心の状態によっては仕事を休むことが必要です。
生活費が入ってこなければ、治療費を払うことが困難になる方もいらっしゃるでしょう。
そのような方を補助する支援制度を2つ紹介します。
自立支援医療(14)
精神疾患で通院による精神医療をつづける必要がある方に、通院のための医療費の自己負担を軽減するための制度です。
外来での診察やお薬代の保険診療部分が1割負担となるだけでなく、世帯所得に応じて1か月あたりの負担額に上限が設けられています。
また、医療費が高額な治療を長期間にわたり続けなければならない方(重度かつ継続) と判断された場合は、1か月あたりの負担額が軽減されます。
詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
傷病手当金
仕事を休んでいる間の給料(標準報酬月額の平均)の3分の2にあたる金額が最長1年6か月受け取れる制度です。
以下の4つの条件を満たした場合、申請可能です。
-
業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
-
仕事につけない状態であること
-
連続する3日間を含み、4日以上仕事につけなかったこと
-
休業した期間について給与の支払いがないこと
傷病手当金は全国健康保険協会(けんぽ協会)や健康保険組合等から受け取れる給付金であるため、自営業者などの国民保健加入者は対象外となることにご注意ください。(15) (16)
Q&A
よくある質問をQ&Aにまとめました。
うつ病なぜ血液検査?
うつ病で血液検査をする理由は3つです。
①うつ病と関連する物質の存在を確認するため
うつ病と関連する血液中の物質として、PEA(リン酸エタノールアミン)が注目を集めています。
うつ病患者はそうでない人と比べ、PEA濃度が低下することが報告されました。
うつ病診断の客観的指標として期待されています。
②うつ病以外の原因を除外するため
うつ病と似た症状が現われる疾患は以下の4つです。
-
甲状腺機能低下症
-
クッシング症候群
-
鉄欠乏性貧血
-
更年期障害
これらの疾患を除外するため、血液検査を行うことがあります。
③うつ病治療薬を安全に使用するため
薬の使用前、使用後に血液検査で腎機能・肝機能・心機能を確認します。
確認する項目は以下のとおりです。
-
禁忌ではないか
-
減量が必要ではないか
-
副作用が現れていないか
また、薬によっては血液を採取し、TDM(薬物血中濃度モニタリング)を行います。
治療に必要な量が飲めているか、副作用が発現する濃度になっていないかを確認します。
うつ病の血液検査は保険適用ですか?
一般的な検査(腎機能・肝機能・白血球・赤血球・ヘモグロビンなど)の検査は保険適用となります。
PEA、セロトニンについては保険適用ではありません。
うつ病の血液検査費用はいくらですか?
検査項目により異なりますが、初診:2,500円〜5,000円、再診:1,500円〜2,500円ほどです。
初診時に心電図検査や血液検査、心理検査などさまざまな検査を行うことがあるため、再診時より高くなる傾向にあります。
血液検査だけであれば1,500円程度でしょう。
また、PEAは保険適用でなく、採血・分析が行える病院も限られています。
川村総合診療院では予約方法により費用が異なり、4,500円〜14,300円かかります。
ストレスは血液検査でわかる?
血液検査でストレスがわかるのでしょうか?
岡山大学の研究グループが、仕事上のストレスと血中のアルギナーゼⅠという物質に相関性があることを発見しました。
女性労働者において、血清アルギナーゼⅠは 仕事ストレスが高いほど低く、仕事の裁量や社会的サポートが多いほど高くなりました。
職場ストレスを客観的に評価するための手段として期待されています。(17)
うつ病は健康診断の血液検査でわかる?
うつ病が健康診断の血液検査でわかることはありません。
血液検査ではありませんが、労働者が50人以上いる事業所では、健康診断と同様に1年に1回「ストレスチェック」の実施が義務付けられました。
ストレスチェックとは、ストレスに関する質問票に労働者が記入し、それを集計・分析することで、自分のストレス がどのような状態にあるのかを調べる検査です。
労働者が自分のストレス状態を知ることで、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的としています。(18)
うつ病でも血液検査で異常なしのことはある?
甲状腺機能低下症、クッシング症候群、鉄不足、更年期障害などの外的要因がないうつ病の場合は、血液検査で異常がみられることはほとんどありません。
うつ病の薬を飲んでいないのは血液検査でばれる?
調子が良いから薬を飲むのをやめた、副作用が辛くて薬を飲まなくなってしまった……
血液検査で薬を飲んでいないことがばれるのでしょうか?
結論から申しますと、TDMをしない限り、薬を飲んでいないことが判明することはありません。
しかし、抗うつ薬は急にやめると離脱症状が出ることがあります。
また、調子が良いように思えても、薬を飲まなければ反動でさらに落ち込むこともあります。
自己判断で薬をやめず、必ず医師へ相談するようにしましょう。
パニック障害は血液検査でわかる?
うつ病と同様にパニック障害に特異的な物質はないので、血液検査ではわかりません。
パニック障害の診断にあたり、パニック障害と同じような症状を引き起こす他の病気がないことを確認するため、血液検査に加え、尿検査、心電図検査、脳波検査などの検査が行われます。
これらの検査で異常がないことが分かれば、パニック障害と診断されます。
まとめ
うつ病は治療に時間のかかる病気です。また、再発しやすいため、長期的に付き合っていかなければなりません。
治療開始時や治療継続にあたり、血液検査をすることがあります。
当記事では、うつ病でなぜ血液検査を行うかについて解説しました。
うつ病で血液検査をする理由は以下のとおりです。
①うつ病と関連する物質の存在を調べるため
うつ病診断は現在のところ、DSM-5などの問診によって行われており、血液検査ではうつ病の診断はできません。
しかし、PEAという物質がうつ病患者の病態と関連することがわかっており、限られた病院でうつ病診断の補助として測定可能です。
PEAがうつ病診断に有用であると証明されれば、うつ病を採血でほぼ確実に診断できる日も遠くないかもしれません。
②うつ病以外の原因を除外するため
うつ症状が出現するほかの疾患の可能性を除去するために行います。
具体的な確認項目と検査項目は以下の表のとおりです。
確認項目 |
検査項目 |
甲状腺 |
TSH、FT3、FT4 |
副腎 |
ACTH、コルチゾール |
鉄 |
Hb、Ht、MCV、MCH、MCHC、Fe、TIBC、フェリチン |
女性ホルモン |
E2、FSH |
腎機能 |
BUN、Cre、Na、K |
肝機能 |
AST、ALT、γ-GTP、ALP |
③うつ病治療薬を安全に使用するため
薬を安全に使用するため、腎機能・肝機能などの臓器の状態の確認が必要です。
薬によってはTDM(薬物血中濃度モニタリング)を行うこともあります。
【臓器の状態を確認する必要のある薬】
確認事項 |
薬の種類 |
注意事項 |
腎機能 |
SNRI、NaSSA(※) |
腎機能低下患者で減量、腎機能によっては禁忌。 |
肝機能 |
三環系抗うつ薬 |
使用により肝障害が起こることがある。 |
デュロキセチン |
高度肝機能障害に禁忌。 | |
心機能 |
一部の三環系抗うつ薬 エスシタロプラム |
QT延長のある患者に禁忌。 |
糖尿病の有無 |
オランザピン |
糖尿病患者に禁忌。 |
【腎機能・肝機能検査項目】
確認項目 |
検査項目 |
腎機能 |
BUN、Cre、Na、K |
肝機能 |
AST、ALT、γ-GTP、ALP |
【TDMを行うことが推奨される抗うつ治療薬】
分類名 |
薬剤名 |
気分安定剤 |
炭酸リチウム、カルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウム |
大部分の三環系抗うつ薬(およびその代謝物) |
アミトリプチリン (ノルトリプチリン)、クロミプラミン ( N-デスメチル-クロミプラミン)、イミプラミン (デシプラミン) |
MARTA(※) |
オランザピン |
SSRI(※※) |
シタロプラム |
また、うつ病診療にかかる費用の目安は以下のとおりです。
初診にかかる費用 |
2,500円~5,000円 |
再診にかかる費用 |
1,500円~2,500円 |
保険診療であれば、およそこの金額の範囲内でおさまるでしょう。
うつ病診療にかかる治療費を軽減する制度として「自立支援医療」があります。
3割負担の医療費が1割になることに加え、1か月の治療費の上限が定められているため、治療費負担を減らすことができます。
うつ病で休職を余儀なくされた場合に給与を補填する制度として「傷病手当金」も紹介しました。
給与(平均標準報酬月額)の3分の2が最長1年6か月支給されます。
生活費の心配を少しでも軽減し、治療に専念することができるため、条件に当てはまれば申請することをおすすめします。
ただし、傷病手当金の支給対象は全国健康保険協会(けんぽ協会)や健康保険組合等に加入していることが条件となるため、ご注意ください。
血液検査を行う理由がお分かりいただけたでしょうか?
うつ病で血液検査を行う理由を理解することで、主体的に治療に取り組むことができます。
また、費用面での心配がある場合は、当記事で紹介した制度を活用して安心して治療にのぞんでください。
参考文献
(1)“抑うつ症候群”.MSDマニュアルプロフェッショナル版.2020-3.
(2)“うつ病や躁病などの気分の障害と適応障害”.飯田橋東口診療所ホームページ.
(3)“血液検査で「うつ病」を診断する時代へ”.BeyondHealth.2019-09.
(4)日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅱ.うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害 2016,11p.
(5)“甲状腺機能低下症|一般の皆様へ”.日本内分泌学会ホームページ.2019-11.
(6)遊亀誠二ら.統合失調症様症状をきたす脳神経疾患|クッシング症候群の精神症状.Schizophrenia Frontier.2011, Vol.12 No.1, 16-20.
(9)“セロトニン 〈血液〉(5-HT)”.LSIメディエンス
(10)腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧.2019.
(11)精神・神経学における薬物血中濃度モニタリング(TDM): 神経精神薬理学にお ける TDM に関するコンセンサスガイドラインの包括的サマリ 2017 年更新版; 臨床家のためのツール(日本語版).
(12)“精神科・心療内科の診察料金はどれくらい?”.元住吉こころみクリニック.2020-08.
(13)“気分障害(うつ病、うつ状態など)を含む精神疾患の診断補助のための血漿PEA測定”.
(15)“【社労士監修】うつ病で休職する社員への給料支払い義務は?企業側が取るべき対応を徹底解説”.フェニックスマネジメント.2021-05.
(16)“休職中の給与の代わり、傷病手当金について精神科専門医が解説”.大曽根駅前こころのクリニック.
(17)仕事ストレスの評価に 血清中のアルギナーゼⅠが指標となることを発見.岡山大学プレスリリース.2017-04.
(18)ストレスチェック制度 簡単!導入マニュアル.厚生労働省.