ASDとは?
ASDとは「自閉スペクトラム症」と言い、英語名の「Autism Spectrum Disorder」の頭文字を取ったものです。
2013年のDSM-5の発表以降、自閉性障害、アスペルガー症候群、広汎性発達障害を総括して、自閉スペクトラム障害と表現するようになりました。
ASDは、生まれつきの脳障害であり、多くの遺伝的な要因が関与して起こるとされています。そのため、親の育て方や環境、愛情不足が原因ではないと医学的に分かっています。
また、ASDの症状は多様で、強さも人それぞれです。そのため、支援が必要な場合も、人それぞれ内容が違ってきます。
ASDの特徴は?
乳児期の早期から特徴が現れ、多くの場合、3歳頃には診断が可能になります。
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視線が合わない
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指さしが少ない
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マネをしない
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こだわりが強い
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感覚が過敏
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集団に入っていけない
上記のような特徴があり、1歳半検診や3歳児検診で指摘されることもあります。
知的障害がなく言葉の発達に問題がない場合、就学後や大人になってから診断される場合もあります。
ASDは、表情やジェスチャー、視線などで相手の考えや気持ちを読み取ったり、空気を読んだりすることが苦手です。
また、自分の考えや気持ちを相手に伝えることも苦手なため、コミュニケーションに問題を抱えている場合が多いです。
そのため、子どもの頃から友達ができにくかったり、やり取りが一方的になってしまったりすることがあります。
学童期以降、いじめにあったり不登校や引きこもりになってしまったりするケースもあります。
ASDの診断基準は?
自閉スペクトラム症の診断は、成育歴の聴取や行動観察を行い、DSM-5に記述されている以下の条件に当てはめて診断されます。
DSM-5とは、米国精神医学会が発行している「精神疾患の診断・統計マニュアル」です。
精神疾患の基本的な定義が記されており、世界共通の診断基準として日本でも多くの病院で使われています。
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複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的欠陥があること
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行動、興味、または活動の限定された反復的な様式が2つ以上あること
(情動的、反復的な身体の運動や会話、固執やこだわり、極めて限定され執着する興味、感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ など) -
発達早期から1,2の症状が存在していること
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発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること
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これらの障害が、知的能力障害(知的障害)や全般性発達遅延ではうまく説明されないこと
(引用:「厚生労働省e-ヘルスネット」より)
その他、心理検査や発達検査、知能検査も行い、専門医が総合的に判断します。そのため、何回か受診が必要になり、すぐに診断してもらうことは難しいでしょう。
ASDで使われる薬とその効果は?
ASDの根本的な治療方法は確立されておらず、ASDそのものを治すための薬はありません。
しかし、特性に合わせた「環境調整」と「療育」をメインに行い、苦手なことへの対応方法や症状の緩和、困りごとの軽減を目指します。
それでも症状が強く日常生活を送ることが困難な場合や、併存する精神疾患には薬物療法が実施されます。ASDの症状緩和に、よく使われる薬を分類ごとに紹介します。
ここで紹介する薬の内容は一部です。作用や副作用、効果について疑問がある場合には、担当の医師に相談しましょう。
中枢神経刺激薬
分類 |
薬剤名(成分名) |
作用・効果 |
副作用 |
中枢神経刺激薬 |
コンサータ (メチルフェニデート塩酸塩) |
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ビバンセ (リスデキサンフェタミンメシル酸塩) |
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(参考:KEGG MEDICUS医薬品情報より)
コンサータとビバンセは、流通の管理と適正使用の推進のため、「ADHD適正流通管理システム」への患者登録をしないと処方ができません。
また、医師や薬剤師も「ADHD適正流通管理システム」への登録をしている者しか、処方や調剤ができないことになっています。
誰でも簡単に処方してもらえる薬ではないところが特徴です。また、コンサータは成人にも処方できますが、ビバンセは小児にしか処方できません。
ただし、18歳未満でビバンセの内服をスタートし、その後も内服が必要と医師が判断した場合は、18歳以上でも処方が可能です。
選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬
分類 |
薬剤名(成分名) |
作用・効果 |
副作用 |
選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 |
ストラテラ (アトモキセチン塩酸塩) |
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(参考:KEGG MEDICUS医薬品情報より)
ストラテラは成人のADHDに処方できる薬のひとつです。
薬を飲み始めて効果が発揮されるまで個人差がありますが、通常1カ月〜2カ月ほどかかると言われています。そのため、毎日継続して服用しましょう。
選択的α2Aアドレナリン受容体作動薬
分類 |
薬剤名(成分名) |
作用・効果 |
副作用 |
選択的α2Aアドレナリン受容体作動薬 |
インチュニブ (グアンファシン塩酸塩) |
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(参考:KEGG MEDICUS医薬品情報より)
インチュニブの主要素であるグアンファシンは、高血圧に使われている薬です。
交感神経を全般的に抑えるため、イライラや衝動などを抑えることが見込まれます。
定型抗精神病薬
分類 |
薬剤名(成分名) |
作用・効果 |
副作用 |
定型抗精神病薬 |
セレネース (ハロペリドール) |
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(参考:KEGG MEDICUS医薬品情報より)
セレネースは、統合失調症にも使われる薬で、イライラや興奮を抑えるのに効果的です。
ADHDの場合、多動や衝動性に対してはもちろんですが、ASDのチックやこだわり行動にも効果が見込まれます。
精神安定剤/抗不安薬
分類 |
薬剤名(成分名) |
作用・効果 |
副作用 |
精神神経安定剤/抗不安薬 |
コントミン (クロルプロマジン塩酸塩) |
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デパス (エチゾラム) |
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セルシン (ジアゼパム) |
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(参考:KEGG MEDICUS医薬品情報より)
名前の通り、不安や緊張を和らげるための薬です。日常的なレベルの不安や緊張に使うための薬ではありません。
薬により作用時間や強さが違うので、体調や状態によって使い分けをする場合があります。作用時間によって副作用が異なるのが特徴です。
作用時間が短いほど依存しやすく、作用時間が長いほど体に薬の成分がたまりやすくなります。そのため、眠気やふらつきなどが出やすくなります。
抗精神病薬
分類 |
薬剤名(成分名) |
作用・効果 |
副作用 |
抗精神病薬 |
リスパダール (リスペリドン) |
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ジプレキサ (オランザピン) |
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エビリファイ (アリピプラゾール) |
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(参考:KEGG MEDICUS医薬品情報より)
非定型抗精神病薬とも呼ばれている分類です。
リスパダールとジプレキサ、エビリファイは、血糖値の上昇や体重の増加に特に注意が必要です。そのため、糖尿病の既往がある方にはジプレキサは禁忌とされています。
また、エビリファイは治療の有益性が上回る場合のみ投与することと警告が出されています。
ASDのチェックリスト
「自分はASDじゃないか?」「うちの子、こだわりが強いけどASDかしら?」と、思い当たることがあると不安になりますよね。
そこで、年齢別にASDの簡単な自己チェックリストを紹介します。当てはまる項目が多い場合は自己診断はせず、医療機関や専門の相談窓口で相談しましょう。
受診する際は、「小さい頃はできなかったけど、今はなんとかできるようになっている」というような、現在だけでなく過去の状況も一緒に伝えましょう。
0歳~3歳ごろ
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視線が合わない
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抱っこを嫌がる
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指差した方向を見ない
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些細なことで激しく泣く
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表情が乏しい
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あやしても笑わない
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発語がかなり遅い
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名前を呼んでも振り返らない
3歳~5歳ごろ
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ひとり遊びばかりしている
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空気が読めない
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冗談が通じない
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人に興味を示さない
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異常にこだわりが強い
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いつもと違うことを嫌がる
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物の定位置が変わることを嫌う
学童期
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集団になじめない
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臨機応変が苦手
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「なぜ」「どうして」などの説明が苦手
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こだわりが強い
思春期
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常に敬語で話すなど不自然なしゃべり方をする
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気持や感情を読み取るのが苦手
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雑談が苦手
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興味があるものはとことん没頭しこだわる
成人期
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雑談が苦手
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相手の気持ちを察することが難しい
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空気を読むことが難しい
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急な予定変更は混乱する
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あいまいな指示の理解が難しい
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指示語の理解が苦手
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先の見通しを立てるのが苦手
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匂いや音、肌ざわりなど特定の感覚が過敏
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他者のペースに合わせるのが苦痛
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人間関係が上手くいかない
ADHDとの違いは?
ASDは、社会性やコミュニケーション能力、想像力が欠如している状態です。また、こだわりが強いこともASDの特徴です。自分ルールやルーティンを持っていることが多く、それを崩すことを嫌います。
ADHDは、「注意欠如・多動症」といわれ、注意力が散漫だったり落ち着きがなく衝動的に行動してしまったします。
ASDとADHDは併存することもあるため、症状が重なって現れるでしょう。例えば、ASDの人もADHDの人も苦手な傾向にあるのは、整理整頓です。
ASDの人は、物に対してこだわりが強いため、物を捨てられず部屋が散らかってしまいます。
ただし、散らかっているように見える部屋でも、ASDの人は物の置く位置にもこだわりがあります。本人は何がどこにあるか把握していることも多いです。
ADHDの人は、注意力が散漫で衝動的に行動してしまうため、やりっぱなしで次の行動に移ってしまいます。
そのため、部屋が散らかってしまい、「整理整頓が苦手」となるのです。「整理整頓が苦手」といっても、整理整頓ができない原因は、ASDとADHDで異なります。
Q&A
よくある質問を紹介します。
大人のASDチェックリストは?
RAADS-14(日本語版)というものがあります。これは、ASDを診断するものではなく、ASDの特性があるかどうかをチェックするリストです。
ASDチェックリスト(RAADS-14日本語版)岩波明著書の「うつと発達障害」(青春出版社)にて詳しく解説されています。
ASD/ADHDの違いは?
ASDとADHDでは、特性が違います。しかし、併存している場合もあるので、特性や症状だけでは判断はできません。
ASDは、社会性やコミュニケーション能力、想像力が欠如している状態です。また、こだわりが強いこともASDの特徴です。自分ルールやルーティンを持っていることが多く、それを崩すことを嫌います。
ADHDは、「注意欠如・多動症」といわれ、注意力が散漫だったり落ち着きがなく衝動的に行動してしまったりします。
ASDが苦手なことは?
ASDの人が苦手とすることを一部紹介します。苦手なことは人によりさまざまで、程度もさまざまです。そのため、ASDの人みんなに当てはまるわけではありません。
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他者の考えや気持を考えることが苦手なため円滑なコミュニケーションが難しい
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こだわりが強いため自分ルールやルーティンを崩せない
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特定の感覚が過敏なため騒がしい所が苦手だったり服が着れなかったりする
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予期しない変化に不安を感じるため臨機応変な対応や急な予定変更は苦手
苦手なことに対しては原因を理解することで、対処することができる場合もあります。
ASDは嘘がつけない?
ASDの人が嘘をつけないわけではありません。ASDの人は、相手の表情や視線、声のトーンなどで感情を推察することが苦手です。
そして、言葉の意味もそのままとらえてしまう場合が多いため、建前や皮肉もそのまま受け取ってしまいます。
また、曖昧な表現も理解しづらく、臨機応変な対応も苦手です。思ったことをそのままの言葉で相手に伝える場合もあります。
そのため、ASDの人はお世辞や社交辞令などを上手に使うことが難しく、「嘘がつけない」と思われる人が多いです。言い換えれば、「正直な人」とも言えるでしょう。
ASD 大人の女性の特徴は?
女性のASDは男性に比べて割合が少ないです。
男児のASDに比べ、コミュニケーションの障害が目立ちにくく、大人になってから診断に至る場合も珍しくないのが女性のASDの特徴です。
しかし、コミュニケーションの障害が目立たなくても、本人は困り感があり周囲とのズレや違和感を感じている場合があります。
女性のASDは、診断が困難であるため、適切な医療や福祉支援に繋がりにくいです。
隠れASDとは?
隠れASDとは、ASDの特性を持っているが自覚していない人を指します。
高校くらいまでは問題がなかった人でも、進学や就職で隠れていた特性が目立つようになり、生活や仕事に支障をきたすというパターンです。
自分では特性の自覚をしていないため、困り感はあるものの原因が分からず、対処ができずにストレスを抱えている状態になります。
ASDの診断テストは?
ASDを診断するためには、問診といくつか検査が必要です。「AQテスト」や「WISC-Ⅳ」、「ADI-R」などの検査が行われます。
その他にも、医師や心理師の判断によって必要な検査が変わってくる場合があるでしょう。
医療機関を受診するほどではないけれど、自閉スペクトラム症の傾向があるか知りたい方には「自閉スペクトラム症診断テスト」というものがあります。
このテストは、ASD診断テストで50問の質問に答えることで、ASDの傾向があるのかがわかります。
こちらは「診断」と付いていますが、診断するわけではなく、あくまで傾向を知るためのツールとして、参考程度にしましょう。
まとめ
ASDとは、自閉スペクトラム症を指し、遺伝的な要因が関与して起こる脳の機能障害です。自閉スペクトラム症は軽度から重度までさまざまで、症状も多様です。
ASDの特徴として、コミュニケーションが上手く取れず人との関わりが苦手であり、強いこだわりや感覚の過敏さなどが挙げられます。
そのため、日常生活や学校、仕事での困り感を感じている人が多いです。環境調整と早い段階で療育を取り入れることで、困り感の軽減に繋がります。
発達障害かもしれないと思う方は、まず医師や相談窓口に相談してみましょう。