適応障害とはどんな病気?症状や診断なども解説
適応障害とは、生活の中でなんらかの強いストレスが原因となり、心身のバランスが崩れて社会生活に影響が出ている状態です。
生活の中で起こった出来事や環境の変化に対してうまく対処することができず、心身にさまざまな症状が現れます。
適応障害の症状
症状は多岐にわたり、人それぞれ症状は異なります。
下記の表は、適応障害で現れる症状の一部です。
情緒面の症状 |
身体面の症状 |
問題行動 |
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正常な人にもこれらのストレス症状が現れることがありますが、適応障害では症状が強く、日常生活が困難な状態になります。
表情や顔つき、声にも変化が現れるため、そのような変化は周囲の人が気づくきっかけとなるでしょう。
適応障害の症状が2週間程度続くようなら、精神科や心療内科を受診する目安となります。
しかし、正常な社会生活が送れなくなっている場合は、すみやかな受診をおすすめします。
また、「精神科」を受診するか「心療内科」かを受診するか迷う場合があるでしょう。
その場合は、以下の目安を選ぶ基準にしてください。
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精神科:こころの不調による「こころの症状」
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心療内科:こころの不調による「からだの症状」
不安や緊張、幻覚、妄想など「こころの症状」が強い場合は精神科、不眠や腹痛、頭痛、倦怠感など「からだの不調」が強い場合は心療内科です。
わからない場合、どちらも対応している病院やクリニックを受診すると良いでしょう。
適応障害の原因
適応障害は、さまざまな要因で発症しますが、生活環境が大きく変わったときに発症しやすいと言われています。
そのため、進学や進級、就職、異動など環境が変化しやすい春は、変化した環境に適応しきれず適応障害を発症しやすい季節と言えるでしょう。
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就学や進学
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就職や転職
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部署の異動
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結婚や出産
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離婚
ライフスタイルの変化や人間関係の悩みも大きく影響します。
適応障害は、ストレスの原因が明確であることが特徴です。
ストレスとなる原因から離れると、症状が改善したり元気に遊んだりできます。
そのため、周囲からは元気に見えてしまうため、「甘えてる」「怠けてる」「根性がない」「性格の問題」などとされてしまいます。
適応障害は、誤解されやすいため、周囲の理解が必要な病気と言えるでしょう。
また、仕事や学校などの環境だけでなく、家族が原因となり適応障害が発症する場合もあります。
家族が原因だと、「家庭」という閉鎖的な環境のため、発見が遅れる場合があります。
負担になっている家族の言動や考え方が変わらないと、改善しないケースも多いです。
適応障害を繰り返したり慢性化したりするケースでは、可能性として隠れた発達障害が疑われます。
発達障害の特性により、自力で適応できない場合が多いとストレスを抱える状態となり、適応障害を発症する原因になります。
適応障害の診断
適応障害の診断には、専門医の診察が必要です。他の病気を否定するために、血液検査や心電図、レントゲンなどの検査を行う場合もあるでしょう。
診察では、以下のことを中心に医師や心理師との問診をすすめます。
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症状が出るに至った経緯
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産まれてからこれまでの成育歴
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既往歴
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家族歴
質問紙を用いた問診や心理検査をする場合もあります。
問診を通して、ストレスの原因はなにか、いつから症状が出ているのか、症状とストレス因との結びつきなどを明確にします。
初対面の医師に、診察室で自分の状態をさらけ出し、全てを伝えるのは難しいです。
しかし、正確な診断をして治療を進めていくために、できるだけ詳細に自分の状態を伝えましょう。
問診の結果と適応障害の診断基準によって、診断を行います。
適応障害の診断基準は、以下の4つです。
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明らかなストレス原因があり、そのストレスにさらされてから3カ月以内に症状が出ている
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ストレスにより強い苦痛を感じ、生活に支障をきたす状態である
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その他の精神疾患ではなく、死別反応でもない
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ストレス原因がなくなると症状が消失し、6カ月以内に回復する
(参考:J-Stage『日本における適応障害患者数の増加』)
適応障害は、ストレスの原因がはっきりしていることが特徴です。
そのため、「原因はわからないけど、心や体がしんどい」という場合は別の病気の可能性が考えられます。
診断には専門医の診察が必要なため、精神科や心療内科を受診しましょう。
適応障害の治療
適応障害の原因はストレスです。そのため、まずはストレスの原因を解決することを目指します。
環境調整
現実的な範囲で環境調整を行います。ストレスの原因となるものを取り除き、休養を取ることが望ましいでしょう。
環境調整の例として、以下のようなものがあります。
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休職
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異動や役職の変更
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退職や転職
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業務量や内容の調整
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家庭での役割の調整
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行政のサポート
しかし、ストレスの原因となるものを取り除くことができない場合も多いです。
その場合は、一時的に距離を取ったりストレスを減らしたりできるよう、職場や学校などと相談し、調整をします。
休職を希望する場合、医師の診断書が必要になる会社が多いです。休職の条件や手続きなどは、会社の就業規則によって異なります。
休職制度がない会社もあります。休職制度は、法律ではなく、会社が定めた福利厚生のひとつであるためです。
休職を希望する場合は、自身が務める会社の制度や必要な書類などを調べておきましょう。
また、環境の一部として、周囲の人たちのサポートも重要です。
周囲が適応障害の正しい知識を身につけ、本人がつらい状況であることを理解するのも大切な環境調整と言えるでしょう。
適応障害の人と接する場合のポイントは以下の通りです。
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肯定的に話を聞く
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無理強いしない
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干渉しすぎない
本人が「やってみようかな」と思える意欲が湧いてくるまでは、休養が必要です。
気分転換や趣味などを提案したくなりますが、それさえも本人には負担に感じることがあります。
周囲としては、心配しているため「なにかできることはないかな?」と思い、つい声をかけたくなります。
しかし、まずは本人がゆっくり休めるような環境が必要です。周囲は温かく見守る距離感でいましょう。
ストレス対処法を身につける
環境調整だけでなく、自身の適応能力やストレスへの対処方法を身につけることも大切です。
ストレス対処法を身につけるための訓練として、以下のような精神療法を行います。
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認知行動療法
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問題解決療法
適応障害になる人は、考え方に偏りがある場合も多いです。
「認知行動療法」は、ストレスの受け止め方にアプローチし、柔軟な考え方ができるようにします。
物事のとらえ方や考え方、それに伴う行動変容を促す精神療法です。
例えば、大事な試験を受けているとしましょう。試験時間の残りが「あと5分しかない」と思うか、「あと5分もある」と思うかで、感じるストレスが変わります。
「あと5分しかない」と考える場合、焦って計算ミスをしたりマークシートがズレてしまったり、簡単なミスを起こすかもしれません。
認知の仕方によって、行動にも影響が出てきます。
「問題解決療法」は、現在抱えている問題と症状に焦点をあて、治療者と患者が一緒に解決策を見いだしていく方法です。
これらの精神療法を行うことで、ストレスに対する考え方や行動に変容をもたらし、問題解決の方法を身につけます。
認知行動療法や問題解決療法だけでなく、ストレスの原因とうまく距離を取ることや気分転換、ストレス発散なども大切です。
うまくストレスに対処できるよう精神療法で訓練をし、ストレスに適切に対処できるよう、自分に合った方法をみつけましょう。
また、適切なストレス対処法を身につけることで、再発防止にもつながります。
適応障害は、ストレスに対する不適応反応です。
そのため、ストレスにうまく対処できる人は、適応障害になりにくいとも言えます。
「適応力」「順応力」を身につけなければ、ストレスに対応できず適応障害を繰り返す可能性があります。
精神療法は一度受けただけでは、十分なストレス対処法を身につけることはできません。
継続していくことが大切です。
薬物療法
適応障害の場合、薬物療法は補助的な役割です。
不眠に対して睡眠導入剤を使ったり、うつ状態に対して抗うつ薬を使ったりする場合がありますが、あくまで対症療法です。
頭が痛ければ「頭痛薬」を飲んだり、咳が出れば「咳止め」を使ったりすることと同じです。
しかし、これは症状に対する薬なので、風邪の根本解決にはなりませんよね。
適応障害においても、薬物療法は根本的な解決になりません。
適応障害は、環境調整とストレス対処法をメインに治療を進めていきます。
そのための助けとして薬を使うことがあり、薬を使って心身が楽になると、現実的な問題にも向き合いやすくなります。
よく使われる薬を紹介します。
- 抗不安薬:不安や緊張が強いとき → ワイパックス、レキソタン、リボトリール、リーゼなど
- 抗うつ薬:抑うつが強いとき → ドグマチール、ジェイゾロフト、レクサプロなど
- 睡眠薬:眠れないとき → マイスリー、レンドルミン、ベルソムラなど
- 気分安定剤や抗精神病薬:イライラが強いとき → デパケン、ジプレキサ、リスパダール、セロクエルなど
薬に対して不安に思う方もいるでしょう。
しかし、症状に対して一時的に薬を使う場合が多く、様子を見て薬を減らしていく場合がほとんどです。
薬は自己判断で中断したり服用したりせず、主治医とよく相談して決めましょう。
適応障害とうつ病との違いは?
適応障害とうつ病の症状は似ている部分もありますが、別の疾患です。
適応障害では、ストレスの原因がはっきりしています。
しかし、うつ病の場合、はっきりとした原因は分からず、徐々にストレスが蓄積し、症状は悪化していきます。
きっかけが見つからないことが多く、発症の原因はひとつとは限りません。
また、回復の過程にも違いがあり、適応障害は原因となるストレスから離れられると徐々に回復していきます。
うつ病の場合、ストレスの原因から離れたとしてもすぐに回復しないことが多いです。
回復には時間がかかり、抑うつ気分が続いてしまうのがうつ病です。
適応障害は治療せずに放置したり、環境要因を変えられなかったりすると、症状が長引く場合があります。
この場合、うつ病に移行するケースが多くなります。適応障害はうつ病の予備軍とも言える状態です。
しかし、しっかり治療をすれば、うつ病に比べて症状の改善が早く、治癒して社会復帰できる方も多いです。
適応障害になりやすい人は?
適応障害になりやすい人のタイプは以下の通りです。
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ストレスへの対処が不得意な人
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繊細で傷つきやすい人
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悩みやトラブルをひとりで抱え込んでしまう人
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人目や評価が気になる人
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対人関係が苦手な人
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まじめで責任感が強い人
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几帳面で物事を徹底的にやらないと気が済まない完璧主義な人
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気持の切り替えが苦手な人
このようなタイプの人は適応障害になりやすい要因を持っています。しかし、必ずしも適応障害になるわけではありません。
自分の傾向を知っておくことも大切です。
また、発達障害の方は、環境の変化への適応が苦手な傾向の方が多いです。発達障害の方も、適応障害になりやすいタイプと言えるでしょう。
適応障害チェックシート
適応障害のセルフチェックシートです。このチェックシートは、診断するためのものではないため、チェックが多くついても適応障害とは限りません。
参考程度にチェックしてみましょう。
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1カ月以内に環境の変化や強いストレスを感じた
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環境に馴染めていないと感じる
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疲れを感じやすい
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学校や会社に行きたくない
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不安感や虚無感がある
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イライラする
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涙もろくなった
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めまいがする
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不眠や食欲低下がある
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趣味や好きなことに対して意欲が低下している
適応障害の診断には、専門の医師の診察が必要です。チェックの項目が多かったり気になる症状がある場合は、早めに心療内科や精神科を受診しましょう。
このチェック項目を参考に、医師へ症状や状態を説明するとスムーズに伝えられるでしょう。ぜひ、活用してください。
Q&A
適応障害について、よくある質問を紹介します。
適応障害はしんどい?
適応障害は、ストレスが原因で精神的症状や身体的症状が出ます。
程度は人によりますが、日常生活も困難になる場合が多く、つらい状態と言えるでしょう。
適応障害の辛い症状は?
適応障害では、食べられない、眠れない、涙が出るなど、その症状はさまざまです。人により程度も感じ方もさまざまです。
薬を使うことで、軽減できる症状もあります。
自分が一番つらく感じている症状を、担当の医師に相談してみましょう。
適応障害ってどんな症状が出るの?
症状は多岐にわたり、人によりさまざまな症状が現れます。
情緒面の症状 |
身体面の症状 |
問題行動 |
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「適応障害の症状」の見出しにも記載しています。
適応障害の初期症状は?
適応障害の初期症状として、身体症状では不眠や食欲低下が現れます。
また、精神症状では、イライラや抑うつ気分が初期症状として多く現れる傾向です。
自律神経症状も、最初に不調を感じる症状のひとつです。
自律神経症状の一部を紹介します。
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だるい
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眠れない
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疲れが取れない
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頭痛
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めまい
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動悸や息切れ
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情緒不安定
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イライラ
自律神経症状は多岐にわたり、ストレスの影響だけでなく、更年期や不規則な生活などによっても現れる症状です。
まとめ
今回の記事では、適応障害について詳しく解説しました。
適応障害は、強いストレスによって日常生活が困難になるほど、心の不調がさまざまな症状として現れる病気です。
環境調整やストレスへの対処方法を身につけること、薬物療法で治療をしていきます。
適応障害になりやすいタイプの人はいますが、誰にでも起こりうる心の病気と言えるでしょう。
適応障害の診断には、専門の医師による精神状態の評価が必要です。
早期治療は早期回復への近道です。
気になる症状がある場合、無理をせず早めの受診をしましょう。